オムツかぶれ
オムツかぶれ
紙オムツの人気商品パンパースのキャッチコピーは“12時間さらさらムレない”です。産科でも汎用されている人気の紙オムツです。自宅に新生児を連れて帰ってきても使い続ける方も多いでしょう。しかし、中には『“12時間さらさらムレない”んだからオムツ代もかかるから12時間オムツ交換しない」という節約家もいらっしゃいます。
長時間同じオムツの使用はオムツかぶれの原因になります。オムツかぶれはオムツに覆われた部位の皮膚炎で、医学的には「おむつ皮膚炎」といいます。おしり全体が赤くなったり、ポツポツと汗疹(あせも)のような湿疹として現れることもあります。炎症にはかゆみや痛みをともないます。悪化するとただれて血がにじむ赤ちゃんもいます。またウエストや太腿のまわりのオムツカバーやギャザーがあたる部分での皮膚炎もオムツかぶれです。
汗疹とアトピー性皮膚炎との違いは、炎症がオムツのあたっているところだけに起こるか起こらないかです。しかし、夏場はオムツの中も汗疹ができやすく、オムツかぶれかと思ったら、実は汗疹だったという場合もよくあります。
新生児期は特にうんちの回数が多く、特に完全母乳ですと消化がよいので、1日に飲んだ回数分の約10回はうんちをします。母乳や粉ミルクを添い寝しながら飲んでいても、ちょっときばってうんちをします。
この時期のうんちの形状はスープカレーにカッテージチーズが混じったような感じ(顆粒便)です。ミルクを足していると少し回数が少なくなり、ややねっとりクリーム色のうんちになります。うんちの回数が多いとオムツ交換をする回数も必然的に増えます。
オムツかぶれの原因
うんちには「消化酵素」が含まれています。そして、市販のおしり拭きで「拭き過ぎ」による摩擦行為などの外的な機械的刺激が合わさるとオムツかぶれの主な原因になります。オムツの中でおしっことうんちが混ざり合うと皮膚のphが上昇して、ますます刺激物の侵入を容易にしてしまいます。
新生児の皮膚はとても薄く乾燥や刺激から守る角質層(お肌の一番外側の部分)の厚さが成人の約半分です。また、成人よりも身体の水分保持量が多く、さらに代謝も活発なために皮膚トラブルになりやすいのです。オムツかぶれの原因はひとつではなく、さまざまな要素がからみ合って起こります。一番の原因はおしっこやうんちの刺激ですが、オムツ内の環境も影響します。そして、サイズの合わないきつい紙オムツやオムツカバーも皮膚をこすって炎症を起こすことがあります。
オムツかぶれの主な原因は以下です。
①おしっこ
みかけは水のようですが、腎臓で濾過された体内の老廃物など肌を刺激する成分を含んでいます。排泄して時間が経つと分解が進みますます皮膚にダメージを与えやすくなります。
②うんち
大腸菌などの腸内細菌や「酵素」などの刺激物がいっぱいです。特に下痢のうんちは刺激性が高くオムツの中で放置されたままになっているとたちまちかぶれになります。新生児のうんちは特にベチャベチャですから、こまめに交換するのが鉄則です。
③下痢
最近は紙おむつの機能がとてもよくなり、おしっこの水分をすばやく吸収して固めてしまうので肌がさらりと保たれ、以前に比べて赤ちゃんがひどいオムツかぶれを起こす頻度は格段に少なくなりました。しかし、うんちの固形物は紙おむつでも吸収できません。ゆるゆるのうんちが1日に何度も出ていたり、下痢の時はたちまちオムツかぶれに見舞われてしまいます。ことに冬に流行するロタウイルスなどが原因の風邪(白色便性下痢症)は激しい下痢が続くためオムツかぶれを起こす赤ちゃんがいます。
④汗蒸れ
赤ちゃんは代謝が活発ですから、元気いっぱいに動くとおしりも汗をかきます。加えておしっこをした直後のオムツの中は湿気が多いです。ムレてふやけた皮膚は傷つきやすく、うんちに含まれる酵素などの排泄物の刺激を受けやすくなります。
⑤おしり拭き
市販のおしり拭きはいわばウェットティシュです。水分を含んでいながら破れない一般的なウェットティシュよりは柔らかいですが、1日に約10回のうんちの度に擦られ刺激は肌が薄くデリケートな赤ちゃんにとっては困り者です。きつくこすったつもりはなくても目には見えない細かな傷がつき、そこから炎症が始まります。
市販のおしり拭きのウォーマ-もあります。しかし、使う頃にはおしり拭きの一番上は乾燥してカピカピで使えません。赤ちゃん用のウォッシュレットがオススメです。
⑤カビ
「乳児寄生菌性紅斑」というカビが原因のオムツかぶれがあります。「カンジダ」というカビにより炎症を起こします。カンジダは蒸れたオムツの中はカビが繁殖しやすくなります。オムツかぶれがオムツのあたっている部分に起こるのに対して、カビによる皮膚炎はオムツが直接肌に触れていない”しわ”の部分にもできることや、赤くなった皮膚の周辺部が特徴的なレース状であったり、さらにその周辺に小さな紅斑があるなどで見分けることができます。また、稀に白い粕のようなものがポロポロ出る場合もカンジタ性のオムツかぶれです。
さらに、肛門の周囲が化膿する「肛門周囲膿瘍」という病気もあります。オムツかぶれがなかなか治らないときには、カビによる皮膚炎を合併していることも疑ってみる必要があります。治りにくい場合は病院を受診しましょう。
オムツかぶれの対策
オムツの中でおしっこやうんちが放置されたままになっているとたちまちオムツかぶれになります。オムツかぶれになりやすい状況は、①ゆるゆるの便が回数多く出ている時期。②下痢のとき。③外出時や夜間など長時間おむつを替えられない時です。
オムツかぶれが起こり始めたサインは、①お尻をふいたら痛がって泣く。②入浴時、お尻にお湯をかけたら激しく泣いた。③オムツをはずすとかゆがってお尻に手をやります。
オムツかぶれしにくくなるオムツ換えのポイントは、①おしっこの時は水分過多なお尻拭きで拭かないようにしましょう。オムツの乾いた部分で押さえ拭きで十分です。②うんちの回数が多く市販のおしり拭きでかぶれる時は、赤ちゃん用ウォッシュレットで洗い流すか、コットンにぬるま湯を浸して洗い流します。市販の赤ちゃん用ウォッシュレットまたは100円ショップの霧吹き器を購入して、ぬるまを入れて洗い流す方法します。③洗い流したら乾いたコットンなどの布で押さえ拭きをして、よく乾燥させましょう。乾かし方は小さめのうちわでも可ですし、冬場はドライヤーの弱で暖かい風を送ります。またお尻を出して、陽が入る明るい所でお尻を出しておくのも可でしょう。これが一番早く治ります。
手軽に赤ちゃんのおしりをウォッシュレットできる商品があります。赤ちゃん用おしり洗浄器「あったかいdeシュ」(アカチャンホンポ)は温水を噴射して、落ちにくいおしりの汚れをすっきり洗い流せます。霧吹きと保温器が一体になったもので、霧吹きの中に水を入れて置くと約90分で水温30~40℃の快適な温度になります。勿論お湯でも可。コンセント式なのでスイッチを入れている間は継続して保温します。40℃前後の温度は雑菌が繁殖しやすい温度でもあるので、1日に2~3回は中のお湯を交換しましょう。西松屋にも類似のオリジナル商品があります。お湯で洗い流すようにして、良く乾燥させてから新しいオムツをはかせましょう。
万が一、赤みが強くなったり、かぶれがひどくなってしまったら病院へ連れて行き診てもらいましょう。皮膚科でも小児科でもどちらでもかまいません。オムツかぶれで処方される薬は「亜鉛化軟膏」です。うんちの後に塗布しますが、軟膏をつける時は、こすり過ぎないよう注意しましょう。トントンと赤みの部分に軽くたたくように塗布します。
しかし、軟膏を塗って悪化する場合もあります。カビによる皮膚炎を合併している時には、通常のオムツかぶれの治療では治りません。さらに、ステロイド軟膏では悪化するので注意が必要です。処方された軟膏を使っていたらかぶれがひどくなった時は、カビの疑いや軟膏による「接触皮膚炎」の可能性もあるので受診しましょう。
母乳
母乳のメリット
赤くない血液である母乳を毎日毎日授乳するのは大変なことです。献血だって2~3ヶ月に1回ですから母体のダメージは計り知れません。しかし母乳は乳児にとってなくてはならない大事な物です。『完全母乳で育児したい』と希望する母親も多い昨今です。どこか曖昧な認識しかない場合も多い母乳のことを知っておきましょう。
母乳は栄養面からみる鉄がちょっと足りないですが、乳児に必要な良質なタンパク質・脂肪・乳糖・ビタミン類・ミネラル・塩・ホルモン・酵素など成長発達していくのに必要なものが全て含まれています。しかも適量含まれているのでほぼパーフェクトです。
母乳はカード(乳餅)をつくりますが、牛乳より作られる粉ミルクよりはるかに軟らかいカードなので赤ちゃんの消化・吸収には良いのです。そして、母乳にはリパーゼという消化酵素が含まれています。消化しにくい乳脂肪の消化吸収を助けています。母乳にはさまざまな成分が絶妙なバランスで適量配合されているのです。
また、母乳の不思議なところは未熟児を産んだ母親の母乳と、2500g以上の新生児を産んだ人の母乳ではその成分が違うのです。低体重児を産んだ母親の母乳には、より豊富なタンパク質や電解質を含んだ母乳が出るのです。
母乳は一番自然なものです。新生児が必要としている栄養分が充分に含まれています。できることなら生まれてからの6ヶ月間、母親の母乳だけで乳児を育てることが最良とされています。また、6ヶ月間、完全母乳育児を続けた後は、早い時期に断乳してしまうより適切な補完食(離乳食)を食べさせながら、母乳育児を2年以上続け自然卒乳を目指すことが子どもの成長にとって最も適切な方法とされています。
免疫グロブリンA
出産してから2~3日の間に分泌される母乳が初乳です。初乳は分泌量は多くありませんが、その中に免疫グロブリンA(IgA)と呼ばれる抗体である免疫物質を多量に含んでいます。初乳中のIgAは母乳を通して新生児の口から入り胃や腸の粘膜に広がります。この抗体により細菌・ウイルス・アレルギーの原因となるタンパク質の侵入が妨げられます。『母乳で育てた赤ちゃんは丈夫』とよく言われますが、この初乳のおかげです。
世界の保健団体は生後6カ月以下の子供のためには母乳が良いとしています。母乳を与えると細菌性髄膜炎や壊死性腸炎などの発生率と重症度が下がり、乳幼児突然死症候群(SIDS)、白血病、アレルギー性疾患のリスクが減ることがわかっています。
母乳は栄養面からみる鉄が不足しています。しかし、母乳の中には「ラクトフェリン」というタンパク質が存在します。これは乳児の腸の中で鉄と結びつき腸管からの鉄吸収を効率よくします。その結果、腸内の鉄が少なくなります。
悪玉菌の代名詞とされる大腸菌が腸内に入ると分裂増殖しますが、それには鉄が必要です。鉄が少ないということは大腸菌の増殖を抑制につながり、善玉菌のビフィズス菌などが優位になります。母乳の赤ちゃんは粉ミルクだけを飲んでいる赤ちゃんに比べて気管支炎や肺炎を起こす頻度が低いというデータもあります。母乳に鉄が若干少ないのには意味があるのです。そして母乳にはリンパ球などの白血球も多数含まれており、母乳自体に殺菌力があるのです。
IgAは生後約3ケ月で低下していきます。そして、母親からもらってきた胎盤通過の免疫グロブリンG(IgG)は約半年で低下していきます。生後間もない赤ちゃんはダブルの免疫で守られています。しかし、徐々にこれらの免疫は低下して、さまざまな細菌・ウイルスに感染しながら自分自身の免疫を獲得していきます。これを「獲得免疫」といいます。つまり、感染は獲得免疫を得るための通過儀礼のようなものです。ヒトは細菌・ウイルスと共生して生きています。
初乳の哺乳回数
出産は人生において大きなターニングポイントです。しかし、出産後の方が慣れない育児や産後の母体の体調など母親の負担は大きいものです。そして、なんと言っても大きな問題は授乳です。
乳児は1日何回に分けて母乳を飲めば満足するかという研究データがあります。ある新生児の生後1日目~14日目までの哺乳回数をみると1日目~5日目までの哺乳回数の変化と6日目~10日目までの回数の変化があります。生まれて1日目は3回くらいです。後は寝ています。母親も出産直後でから非常に疲れている状態です。
ところが2日目になると、少しお腹がすいてきます。しかし母乳は十分に出ません。ですから1日に6回も飲みます。ところが3日目、4日目、5日目というぐあいに日を追うごとに哺乳回数が増えていきます。5日目ぐらいまでは、いくら吸っても母乳がよく出ないので、吸う回数が増えるのです。回数が増えるごとに母乳の分泌量も増えています。5日目ぐらいになると母乳分泌のプログラムに本格的なスイッチが入るようです。それは日毎に飲む回数が減っていきます。回数を減らしてもお腹がいっぱいになるくらい分泌される訳です。そうしてだいたい1日6回くらいで必要な哺乳量が得られることになります。
ほとんどの母親は出産直後には乳首ににじむくらいしか母乳が出ません。体重3000gの新生児なら1日あたり最低でも約220mlの栄養が必要ですが、どんなに母乳の出がよい母親でも必要な量の母乳が出始めるまでは1週間くらいかかるのが一般的です。つまり5日目くらいがひとつの山場です。これを越えないと母乳哺育はうまくいきません。
2日目~3日目あたりであきらめて粉ミルクにしようというようになる人も出てきます。5日目くらいで母乳分泌のプログラムがフル回転しはじめると新生児の泣き声を聞いただけで胸が張ってくるようになります
ほとんどの母親は出産直後は乳首ににじむくらいしか母乳が出ません。体重3000gの新生児なら1日あたり最低でも約220mlの栄養が必要ですが、どんなに母乳の出がよい母親でも、必要な量の母乳が出始めるまでは1週間くらいかかるとされています。母乳の出は個人差が大きいです。必要充分な量の母乳が出るようになるのは一般的に産後2ケ月くらいからともいわれています。出る量・出る時期も個人によって異なります。
初乳の成分
英国の古い母乳に関する研究によると哺乳中に母乳成分の変化がみられます。これは新生児が母乳を吸いはじめて終るまでの母乳の成分変化を時間を追って分析したものですが、4つの大きな特徴がみられます。①吸っていくうちに分泌量がだんだん増えることです。②はたんぱく質の濃度はあまり変わりません。③脂肪の濃度が上がっていきます。④ペーハー(Ph・酸性度)が上がっていきます。
つまり、吸い初めのペーハーは7.2ほどで酸性に近く、吸い終るときには7.4ほどとアルカリ性に傾くのです。分泌量が増えてもたんぱく質の濃度が変化しないということは分泌量に正比例してたんぱく質も増えるということを意味します。ところが脂肪の濃度が上がっていくというのは、吸いはじめの母乳よりも終りの母乳の方がクリーミィな味がするということになります。ペーハーが上がるということは吸いはじめよりも終りに近づくにつれて酸味が弱くなっていくことを意味します。
吸いはじめから終りに近づくにつれて塩分・カルシウム・ナトリウムなど(乾燥して測る乾燥重量)も増えていきます。こうしてみると乳児にとって吸いはじめの母乳は薄く水っぽいのですが、次第に量がふえて濃いクリーミィな味になり酸味も弱くなっていくものと考えられます。
この研究では母乳の味が吸いはじめと終りとで違うのは、それによってある種の食欲のコントロールを学ばせ食事にははじめと終りがあるということを教えているのではないかと推察されています。もちろん哺乳中の成分の変化などに意味はなく、最初はたまっていた母乳が分泌され、最後の方は新しい母乳だから、たまたまそうなるだけと考える学者もいます。
別の研究でも母乳は飲み始めと飲み終わりで味が違うとしています。飲み始めの「前乳」ではタンパク質、脂肪が少なく乳糖が主成分です。お腹が空いた新生児が飲み始める母乳はやや糖分が多く甘く食欲をそそります。その後、飲み進めていくと「中乳」となり甘味が薄れます。次第にタンパク質の含有量が増えてきます。いわば主食。タンパク質は赤ちゃんの体を作る大事な栄養素です。食欲をそそられタンパク質をグイグイと摂取するように絶妙な自然の味付けがしてあるわけです。そして飲み終わり頃の「後乳」には脂肪が多く赤ちゃんに満腹感を与える仕組みになっています。ですから飲み過ぎる心配がありません。
母乳育児の推奨
厚労省は母乳育児を推奨しています。産科・産院の助産師から母親に『母乳以外、一切与えるべきではない』という完全母乳育児を指導するケースも多いようです。母乳は一番自然なものです。新生児が必要としている栄養分が充分に含まれています。できることなら生まれてからの6ヶ月間、母親の母乳だけで乳児を育てることが最良とされています。
厚労省が2016年8月24日に公表した『2015年度乳幼児栄養調査結果』を公表しています。調査は1985年度から10年ごとに実施。今回は2015年9月、同年5月末時点で6歳未満の子どもがいる世帯に行い、うち3871人の子どもに関する有効回答を得たものです。母乳のみで育てた保護者の割合は2015年度は生後1ケ月が51.3%、生後3ケ月が54.7%で50%超です。前回調査2005年度の42.4%と38.0%を上回りました。粉ミルクと両方で育てた場合も含むと生後1ケ月は96.5%、生後3ケ月は89.8%でした。混合は約90%となっています。
授乳についての悩みを複数回答で聞いたところ「母乳が足りているか分からない」が40.7%で最も多く、「母乳が不足気味」(20.4%)、「授乳が負担」(20.0%)と続いています。厚労省は“母乳育児を推進する普及啓発の成果”と分析しています。
母乳育児のポイント
『母乳育児がいいのは分かっている。でも出ない場合はどうしたらいいの?』『どういうものを食べると母乳がよく出るの?』などの悩みを聞きます。
①1日10回以上飲ませる
母乳育児はスタートが肝心です。まずは新生児に乳首をくわえさせる習慣をつけることが大切です。根気よく口に含ませてあげましょう。授乳間隔はそれほど気にする必要はありません。「欲しがる時に、欲しがるだけ」が基本です。
②水分を良く摂る
母乳の出が良くなるためにも栄養のあるものを摂取して、水分をたくさん摂るよう心がけましょう。
③しっかりとお昼寝をする
母体が疲れてしまうと、なかなか母乳が出にくくなるものです。3ヶ月頃までは乳児のペースに合わせて寝られるようなら一緒に休みましょう。しっかりとお昼寝をして体力をつけることが大切です。
オキシトシン
新生児が口に入ってきたものを強く吸う吸啜反射(きゅうてつはんしゃ)があり乳首を吸うのです。その他も唇に乳首などが触れると首を回す探索反射、乳首が口に入るとくわえる母乳を飲み込む嚥下反射(えんげはんしゃ)など一連の哺乳反射があります。
乳首の吸啜刺激は母親の脳にある下垂体後葉から「オキシトシン」を分泌させます。そして、乳腺のまわりにある筋肉を収縮させる作用があり乳汁を射出させます。これを射乳反射(しゃにゅうはんしゃ)といいます。ですから、片方の乳を飲ませていると飲ませてない方からも乳汁が出てきてしまいます。
そして、新生児は吸い始めは乳首を軽くチュパチュパして刺激し、しばらくするとチューチュー飲み始めます。これはオキシトシンが分泌されて射乳反射が起きるまでのタイムラグを知っているからです。そして、オキシトシンは子宮収縮に関係します。
オキシトシンは“愛情ホルモン”とも呼ばれ授乳することで母子ともに幸せ感が得られます。さらに、オキシトシンが分泌され安らぎと親子の愛着が形成されます。赤ちゃんは生まれてすぐの母親との接触によってオキシトシン受容体が増加し、オキシトシンの影響を受けやすくなります。それにより母親への愛着を安定させ信頼の絆を高めさらにストレス耐性も高まります。
ちなみにオキシトシンというホルモンは女の子にも男の子でも分泌されます。女の子はその性質上、オキシトシンの分泌が芳しいの少し抱っこするだけでも分泌されますが、男の子はたくさん抱っこや授乳でスキンタッチしないとたくさん分泌されません。ですから男の子の方が『ママ抱っこ、抱っこ~』というのが多い訳です。授乳という行為は強い母子関係を築き乳幼児の愛着(アタッチメント)形成に非常に重要だと考えられています。乳幼児の精神発達に良い影響を与えるのです。
プロラクチン
オキシトシンの他に催乳を促進する「プロラクチン」があります。母乳分泌に作用するホルモンでプロラクチンも別名は“母性化ホルモン”ともいい、母性を作る大切なホルモンです。プロラクチンがたくさん分泌されている母親は育児ストレスにも対抗できます。
例えば、授乳中に他人の赤ちゃんの泣き声が気にならなくなります。自分の子どもの泣き声以外には敏感でなくなってしまうのです。また、授乳期の母親は夜中に何回も授乳などで起こさえても昼間は意外と元気です。これもプロラクチンの作用によるものです。細切れの睡眠で十分体力の維持ができるようになっているのです。
さらに、プロラクチンとオキシトシンにより母親は授乳期間は妊娠しにくくなります。妊娠しにくくなることで育児に集中できるのです。絶対妊娠しない訳ではありません。妊娠が判明した時点で母乳による授乳はNGとされています。たまに『子供がお乳を欲しがるから』と続けている母親もいます。オキシトシンは子宮収縮させるので流産や早産するリスクがあるからです。しかし、授乳は流産と無関係とする論文発表もあるので、通院している産科医さんに確認を取るのが懸命でしょう。
人工ミルク
母乳を栄養面から考えると鉄が若干少ないだけでほぼパーフェクトです。粉ミルクは母乳に似せて作られていますが、母乳とは違います。粉ミルクのタンパク質と母乳のタンパク質は量・組成・性状などが異なります。
粉ミルクの原材料は牛乳です。牛乳は胃液と反応して「カード」と呼ばれる乳餅をつくります。牛のように4つも胃袋があれば問題ないのですがヒトの赤ちゃんは胃はひとつです。
つまり、赤ちゃんにとって粉ミルクは消化不良の原因になります。最近では粉ミルク製造の技術が進歩して、少しでも母乳の成分に近い「ソフトカード」というのもあります。
粉ミルクは前乳・中乳・後乳で変化しないので、与えたら与えた分だけ飲みます。知らないであげ続けると噴水のようにミルクを吐く場合もあります。また乳児は授乳の際、空気も一緒に飲み込みます。ヒトは胃と食道の継ぎ目に括約筋がありますが、乳児はその括約筋が緩いのでゲップとともに吐乳してしまうことが多いです。ですから授乳後に背中をトントンしてゲップを出してあげる方が赤ちゃんにとっては楽なのです。
母乳成分が刻々と変化するは特別な意義があるようです。哺乳ビンのゴム製の乳首からでてくる人工ミルクの味は単一で、成分の変化もまったくありません。したがって胃がパンパンになるまで飲むことになるのかも知れません。人工ミルクの乳児は太り気味の子が多いようです。そして吸う力もさほどいらないので、顔もホッペが下がった下膨れの“おたふく顔”も多いです。
人工ミルクがどうしても必要という場合もあります。母親にHIV(エイズ)・HTLVー1(ヒトT細胞白血病ウイルス因子)がある方、ホルモン剤・抗うつ剤・抗ガン剤など強い薬を服用している場合、また、体重の減少が顕著で新生児黄疸が強い場合などは医学的に人工ミルクにする必要があります。日本の粉ミルクは、世界的にも見ても上質にできており、母乳に近づけるための工夫がなされています。むしろ母乳より栄養成分の含有量が多いくらいです。
粉ミルク育児のよい点もあります。①預けやすい、②腹持ちがよいのでよく寝てくれる、③母乳だとうんちの回数が多く、おむつかぶれになりやすいですが、ミルクだとまとめウンチになるのでおむつ交換が楽、④公共の場でもミルクを与えることに抵抗がない(周囲への配慮)、⑤断乳、卒乳が楽、⑥父親の育児参加が簡単に出来る、⑦乳頭トラブル・乳腺炎などを回避できます。
人工ミルクアレルギー
粉ミルクの原材料は牛乳です。牛乳アレルギーがある新生児が粉ミルクを飲用すると湿疹などのアレルギー症状が出ることがあります。現在はアレルギー対応のミルクも各メーカーから出ています。ボンラクト(和光堂)は大豆から出来ている粉ミルクです。小児科医と相談しながら決めていくということになります。
母乳育児の乳児でも母親が偏った食べ物(アレルギー物質)を大量に摂取すると母乳を通じてアレルギー反応として出てしまうこともあります。粉ミルク・母乳に関わらずバランスが取れた食事をしてアレルギーの予防をしましょう。
完母主義
出産後に母乳がほとんど出ない人もいます。『1歳まで母乳以外を与えてはいけない』などの完母主義(完全母乳主義)のような「母乳神話」や「母乳信仰」の風潮があります。
人工ミルクを与える母親は母親失格という行き過ぎた母乳信仰があります。母乳育児に対するあこがれや出産した病院の完全母乳を勧める方針などにより、母乳が出ないことがまるで駄目なように深刻にとらえて、赤ちゃんに対して罪悪感をもち自分を責めてしまっている母親がたくさんいます。ひどくなると「産後うつ」になる方もいるほどです。
完母主義をとる産科や助産院では母親に『赤ちゃんは3日分の弁当と水筒(栄養と水分)を持って生まれてくるから、母乳が出なくても大丈夫。頑張ってお乳を含ませてください』などとと説明して、必要な糖水や人工ミルクを一切与えようとしないケースが多いというのです。
新生児は水分や脂肪などのエネルギー源を持って生まれてきます。これが『3日分のお弁当』です。多くの母親が『初めは母乳が少なくても大丈夫』などと授乳指導で助産師から聞かされています。そもそも『3日分のお弁当』は母乳育児に積極的だった医師が、母乳が出ない人を安心させるために言い始めたとみられています。実は新生児の出生体重に問題があり誤解を招く指導なのです。
日本助産師会は『母乳の出方には個人差があり、3日間ミルクを足さなくていいとは考えていない』としています。母乳育児を推進する日本ラクテーション・コンサルタント協会も『日本独自の表現』として、母乳育児を軌道に乗せるには、生後すぐ頻繁に授乳し母乳の分泌を促すことが大切だとしています。そして『母親たちに粉ミルクをあげたら失敗だと思わせてしまうのは望ましくない』とも指摘しています。
行き過ぎた母乳信仰が根強いのは、世界保健機関(WHO)が母乳育児を推奨していることを根拠としているようです。WHOが母乳を勧めるのは途上国では不衛生な水などを使った粉ミルクを飲んで感染症になり多く乳幼児死亡率が高いからです。衛生環境が整った日本には当てはまらないにもかかわらず、途上国向けの「母乳育児成功のための10カ条」だけが独り歩きして、その結果、母乳が足りない新生児を飢えさせているのです。
必要な栄養が与えられなかった結果、日本の新生児は出生直後から飢餓状態に置かれ、脳障害を遺す危険がある重症黄疸・脱水・低血糖状態のリスクが高まっています。生後3週間の体重が10~15%減でも大丈夫としている産科もありますが、そんなに体重が減った新生児は母乳が足りずに飢餓状態と考えるべきです。1ケ月健診で体重が増えていないため小児科医から、人工ミルクを足すように指導されます。
体重が10%以上減少していれば低血糖になる可能性があり注意が必要です。新生児の低血糖とは脳の重要なエネルギー源となる血液中のブドウ糖濃度が低くなった状態です。眠りがち、呼吸が不安定、ぐったりするなどの症状が出ることがあります。先天的な代謝異常や母乳が十分に飲めない状態が続くことなどによって重症化すると脳に障害が出る恐れが指摘されています。つまり、成長するにつれコミュニケーション障害などの発達障害の問題が出る可能性が指摘されているのです。
病院の母乳外来や助産院にも通い、母乳の出やすい食事のアドバイスや母乳マッサージを受けるのも必要かもしれません。しかし、ナチュラル指向の助産師の中には『人工乳を与えたら母乳を一切飲まなくなる』と言う人がいるそうです。これは迷信です。元気な赤ちゃんはお腹が減れば、母乳でも粉ミルクでも飲みます。赤ちゃんにとって最優先事項は充分な栄養を与えることです。
助産師らは母親の意思を尊重し、経験や信条ではなく必要なら検査データや医学的に根拠のある説明をして、支援しなければならないとの指摘もあります。母親自身が自分の授乳方法に納得し自信を持てるかが一番重要です。
ある産科医が母乳・粉ミルク・混合(母乳と粉ミルク)で乳児の飲む量を比較調査したところ、有意差はなかったのです。母乳が足りないときは心配せずに人工ミルクで栄養を補ってください。いちばん大切なのは母親が母乳の出が少なくても安心して子育てをすることです。
また、乳児期の栄養状態が発達に影響する可能性が指摘されています。
くる病
戦後の栄養不足の時代に多かった乳幼児の「くる病」が最近増えています。くる病は成長期(骨の発育期)の乳幼児でビタミンDが極端に不足することで、血中のカルシウム濃度が下がりカルシウムが骨に沈着せず、軟らかい骨の組織が増加している状態です。カルシウムを骨に取り込む助けとなるのがビタミンDです。骨の成長障害や骨格や軟骨部の変形などを引き起こします。歩き始める1歳以降、足に負荷がかかりO脚になりやすいのです。歩いてはすぐに転ぶようなことが続くとくる病が疑われます。進行すると歩行困難になることもある病気です。
ビタミンD欠乏性くる病の増加の3大要因は、完全母乳育児の推進・日光浴不足・偏った食事です。数年前には原発事故もあり、外で遊べずに極度に日光を浴びない状況で母乳栄養での育児を続けると乳幼児がビタミンD欠乏性のくる病になる事例が増えていると報告されています。女性は紫外線に当るとシミになるからとさまざまな理由で日光を避けますが、乳幼児にはある程度の紫外線が必要で、これにより骨が丈夫になります。
日本人の食事摂取基準(2010年版)では、ビタミンD目安量は1日当たり5.5マイクログラム(成人)とされていますが、他の先進国では10~25マイクログラムを推奨しているのが多いです。東京大学大学院の北中幸子准教授が最近の関東地方の健康な子ども、69人の血中ビタミンD濃度を調べた結果、約4割の子どもでビタミンD不足だったと報告しています。
ビタミンDは魚・卵黄・キノコなどからの摂取と紫外線で生成されます。そして、ビタミンDは日光にあたらないと活性化しません。活性ビタミンDは骨形成に不可欠なミネラルです。ビタミンDの必要摂取量の70~90%は日光から得ているとされています。
京都大学が平成20年に発表した調査ではビタミンD欠乏症を示唆する頭蓋骨がへこむ症状がある新生児は5人に1人に上り、特に春に生まれた赤ちゃんが高かったのです。母親が日照時間が短い冬に妊娠期間を過ごしたためと考えられています。春に生まれた赤ちゃんにビタミンD欠乏症が多いという報告から、冬季の北日本では積極的に日光浴が奨励され始めています。
1980年代の末からユニセフや世界保健機関(WHO)が母乳育児を推奨しています。現在、国内でも広く推奨されています。母乳は赤ちゃんに大切な免疫物質が含まれるなど利点が多いですが、ビタミンDは人工乳に比べて極めて少ないのです。
家庭で簡便なくる病の見分け方の目安は、1.5歳頃になっても歩かないや転倒しやすい場合です。また、1~2歳くらいの場合、立たせるあるいは寝かせて足を伸ばした状態で両足の踵をつけます。その時に膝と膝のすき間が約3センチ以上開いていたら要注意です。さらに、くる病になると背が伸びにくくなるので、成長曲線を逸脱した身長の伸びが悪い場合も気をつけてください。乳幼児のビタミンD欠乏性のくる病はO脚以外に、カルシウム不足によるけいれんもあります。そして、1歳以降も母乳を続け離乳食をほとんど食べていない場合などでも発症します。
2013年、日本小児内分泌学会はくる病の診断の手引きを作成しています。くる病が疑われる場合、血液検査とX線検査を行います。血中ビタミンD(25OHD)濃度の測定や膝関節のエックス線画像などで診断します。しかし、血中ビタミンDの測定は保険適用になっていませんので自費になります。
世界的にもビタミンD欠乏症が増えています。くる病は完全母乳で育っている子どもに多く発症しています。予防策として、まず妊娠期から適度な日光浴とバランスの良い食事を摂りましょう。そして母乳育児のお子さんには日焼けしない程度に日光浴をさせましょう。そして、母乳だけでは栄養が不足するので、離乳食では骨や筋肉の発育にはカルシウム(子供の摂取目安は400~1000ミリグラム)・リン(子供の摂取目安は600~1350ミリグラム)・ビタミンD(子供の摂取目安は4.0~5.5マイクログラム)を含む食材を積極的に取らせることが大切です。
生後9ヶ月頃になると離乳食も3回食が始まり栄養の中心は母乳や育児用ミルクから離乳食へと移ってきます。この成長期には各栄養素をバランスよく補ってあげることが大切です。そこでビタミンDや鉄などが添加された“フォローアップミルク”という選択肢もあります。ぐんぐん(和光堂)は牛乳では不足しがちな鉄やビタミンC・ビタミンDを豊富に含みます。3歳頃までの栄養補給に適したフォローアップミルクです。アイクレオのフォローアップミルク(グリコ)は食べ方に偏りが出やすい9ヶ月頃からの離乳期に、食事だけではとりにくい鉄・カルシウム・ビタミンDなどの栄養をバランスよく補うことができます。のチルミル(森永)は9ヶ月頃から3歳頃までの乳幼児に大切な栄養素をバランスよく配合したフォローアップミルクです。
母乳が出ない
厚労省の乳幼児栄養調査(2005年)では妊娠中の女性の96%が『母乳で育てたい』と回答しています。しかし、実際に母乳だけで育てている割合は生後から1ケ月が42.4%、3ケ月は38.0%。授乳の悩みでは『母乳が不足ぎみ、出ない』が48.1%で最多となっています。
出産後に母乳がほとんど出ない人もいます。『1歳まで母乳以外を与えてはいけない』などの完全母乳至上主義のような「母乳神話」の風潮が蔓延しています。ママ友に相談しようと思っても『出来損ないの母親と見られそうで・・・』、夫やその親には『母親失格・・・』と思われたるするのではないかと戦々恐々としています。母乳が出やすくなるというハーブティーに跳びついたり、助産院で助産師に母乳マッサージしてもらうという方法もあります。しかし、助産師からは『赤ちゃんのために頑張って母乳をあげて』といわれても、出ない時の絶望感により母乳ノイローゼになります。
我が子を母乳で育てなければいけないという根強い完母信仰があります。母乳は3ヶ月は必ず与えた方が良いのは周知の通りです。しかし、病気や諸事情により母乳を与えられないこともあります。このような場合は「母乳バンク」や産婦人科に併設している「母乳外来」、または母乳マッサージを主に行っている助産院などに問い合わせてみましょう。母乳のプロに聞くのが安全で安心できます。
乳房・母乳マッサージ
乳房マッサージは医師または助産師が保健指導の範囲で行なっています。
乳房マッサージや母乳マッサージは乳腺を発達させ、母乳の産生を促すとともに新生児に安心して母乳を飲ませることが、できるようにケアするマッサージです。新生児が乳首に吸い付きにくく、上手に母乳を飲めなかったり、乳首が傷ついて授乳のたびに痛んだりします。「乳腺炎」などの疑いがある方は、まずは病院や母乳外来を受診しましょう。
乳房マッサージは助産師だけでなく自分でも簡単にできます。妊娠中(安定期以降)から始める人もいます。乳房マッサージのセルフケアの基本的なやり方です。①マッサージする乳房を反対側の手でボールをつかむように支えます。②もう片方の手の親指(付け根あたり)を脇下の乳房周辺部にあてます。③乳房の外側から内側に向かって両手で力をいれ、これを3回行います。同じようにマッサージする乳房を反対側の手で斜め横から支え行ったり、マッサージする乳房を反対側の手で下から支えてとポジションを変えて行っていきます。
乳頭・乳輪マッサージ
産後の母乳育児をスムーズにするために、妊娠中からお手入れを始める方もいます。乳頭・乳輪マッサージを始めるタイミングは妊娠28週目頃が良いとされています。しかし、乳頭への強い刺激は子宮を収縮させる恐れがあるので要注意です。また、切迫早産で張り止めの薬を飲んでいる人は臨月に入ってから行なうのが無難です。
乳頭・乳輪マッサージは乳頭の伸びを良くし、うっ血やむくみをとり皮膚を柔らかくします。授乳期の摩擦に強い乳頭へと整えます。乳頭が固いままだと赤ちゃんがうまく吸えなくて母乳が出にくくなります。これで新生児が飲みやすい乳房になります。
授乳が始まると、1日に何度も赤ちゃんにおっぱいを吸わせますが、強い吸引力で乳頭を吸いますので、しばしば乳頭が裂けたりします。また、授乳中は乳首が常に濡れた状態のため、下着とこすれて皮膚がただれを起こしたりとトラブルが絶えません。あらかじめお手入れをしておくことが皮膚の鍛錬になり、産後の乳頭の裂傷などの予防になります。乳頭・乳輪部は敏感なので、マッサージの際は必ず低刺激の植物性オイルをつけて行いましょう。乳頭・乳輪マッサージのやり方です。①片方の手で乳房を保護して、マッサージする手の親指・人指し指・中指で乳首をつまみます。②普通は3秒、乳首が硬ければ5~10秒かけて少しづつ圧を加えながら圧迫します。圧迫する指が白くなるくらいまで充分圧迫します。痛みを覚える程に無理矢理してはいけません。最初はゆっくり乳頭・乳輪部を位置・方向を変えながら1分くらい圧迫します。乳首の硬い人、過敏な人は2~3分かけて十分行って下さい。③横方向、縦方向にこよりを作るような感じで揉みます。最初はゆっくり痛くない程度に、ある程度したら十分揉みます。乳首が敏感で圧迫刺激だけでも痛い人は、まず圧迫刺激になれるようにします。④縦方向にも揉みます。毎日の習慣として続けるように工夫しましょう。
乳房マッサージ・桶谷式
産後は慣れない育児と体調の不安定もあります。育児の協力は必須です。例えば、父親に赤ちゃんをお風呂に入れてもらい、母親はたまにはゆっくりと湯船に浸かるなども良いアイデアです。少しでも育児ストレスが緩和されることで、血行も良くなりますし、心身ともに良い状態になることから母乳が出やすくなります。
『それでも出ない』とお悩みの方には、産院・助産院の乳房マッサージしている所に相談してみるのもオススメです。“母乳マッサージは痛い”というイメージが強いです。実際多くの産院などでは涙が出るくらい痛みを伴うマッサージが施されます。そんな中でも、“痛くない”“よく母乳が出る”乳房マッサージで知られるのが桶谷式(おけたにしき)です。
助産師であった桶谷そとみ(1913-2004)が考案した乳房マッサージが桶谷式です。特徴は乳房の基底部(乳腺体の後面)の伸展性をよくして母乳をスムーズに出す独自のマッサージです。この桶谷式の乳房マッサージの手技が難しく、ベテランの助産師が専門の研修会や勉強会に参加し技術を取得するようです。本気で厳しいようで徹底した教育システムでやっているので、そんじょそこらで見よう見まねでやっている母乳マッサージとは、雲泥の差があるそうです。全国にある桶谷式乳房管理法研鑽会の母乳育児相談室では、痛くなくて良く出るようになると評判の乳房マッサージや、適切な食事指導・育児相談・サポートを行っていますので相談してみましょう。
当院がある荻窪近辺には桶谷式母乳マッサージ2ヶ所ほどあります。「杉並・子育て応援券」も使えます。ご希望の方はお問い合わせしてみてはいかがでしょう。
・桶谷式母乳育児相談 高木助産院
杉並区下高井戸1-9-15 MK915 206号室 03-3327-8177
・母乳育児相談室 マリア助産院
杉並区荻窪3-48-10 ロイヤル須田205 03-3392-8992
ニセ母乳
母乳が出ないとネットの母乳の売買業者から母乳を買うという人もいます。母乳の売買を呼びかける業者や個人ブログがあり、利用者が多数いる可能性があります。ネットの母乳販売サイトには『母乳は人気が高くて品薄だが、今なら少しストックがある・・・』。50ml単位の冷凍パックで代金引換の宅配便で送らてきます。相場は1パック5000円前後です。母乳販売サイトでは用途を『母乳風呂やせっけんなど』と説明していますが、実際は飲料を前提としています。
母乳ネット販売業者はかつて慣習だった「もらい乳」をビジネス化したのです。思うように母乳を与えられずに悩み・焦り・罪悪感を抱える母親が多くいます。産院や自治体によって授乳の指導や助言がまちまちであることが背景にあります。
そうした状況を狙うかのように、出所も不明な細菌汚染されているかもしれない不衛生な「ニセ母乳」を売る極めて悪質な業者がいます。母乳販売をうたう業者のサイトで販売されている凍結母乳(50ml)を、国内唯一の母乳バンクがある昭和大江東豊洲病院と一般財団法人・日本食品分析センターが検査・分析した結果、母乳にはないタンパク質「βラクトグロブリン」が検出。乳アレルギーの子供が飲めば強い反応が出るレベルで含有されていました。脂肪や乳糖(炭水化物)は一般的な母乳の半分程度でした。同病院の水野克己小児内科教授は『脂肪分が少ない状態の母乳を水で希釈した粉ミルクに混ぜた可能性が高い』と指摘しています。
そして、連鎖球菌など3種類が検出。母乳バンクで安全としている一般的な母乳の100~1000倍です。免疫力の低い乳幼児らが摂取すれば敗血症(はいけつしょう)などを引き起こす恐れがあるレベルです。山崎伸二大阪府立大教授(細菌学)は『極めて不衛生な環境で製造、保管されていたことが疑われる。病原性の弱い菌なので健康な人が摂取すれば大きな問題はないだろうが腸管の発達が不十分な乳児は思わぬ健康被害が生じる恐れがある。絶対に飲ませるべきではない』としています。
食品を作って売る場合には保健所の許可が必要になりますし、血液や臓器の売買は禁止されています。母乳が無許可販売されているのには問題があります。厚労省監視安全課によると国内で母乳の販売は規制されていません。衛生上問題のある母乳の販売について『母乳は体液なので区別が難しいが、食品として扱うとしても不衛生なものは食品衛生法に抵触する可能性があるし売買すべきものではない』としています。病原菌などが混入した食品販売を禁止する食品衛生法に抵触する恐れがあり、医療関係者は『乳児に飲ませるのは危険』と警鐘を鳴らしています。
厚労省は2015年7月、衛生管理状況が不明な母乳を乳幼児に与えることに注意を呼びかける通知を文書で全国の自治体に出しています。文書の内容は既往歴や搾乳方法、保管方法などの衛生管理状況が不明な第三者の母乳について、『病原体や医薬品の化学物質などが母乳中に存在した場合、これらに暴露するリスクや衛生面のリスクがある』と指摘しています。
母乳を通じて感染する可能性がある病原体の例として、エイズウイルス(HIV)や白血病ウイルス(HTLV−1)を挙げています。その上で妊産婦訪問、新生児訪問、乳幼児健康診査などを利用し妊産婦や乳幼児の養育者に、ネット販売されている母乳のリスクを広く注意喚起するよう求めています。また、問題がある母乳の販売業者には販売停止などの指導をするよう求めています。また消費者庁も同様の注意を喚起しています。
関係機関は母乳売買の規制や対策を急ぐ必要があると指摘されています。
乳児用液体ミルク
海外では乳児用液体ミルクが普及しています。例えば、Similac(シミラック)はAbbot Nutritionという会社から販売されているミルクブランドです。米国の産科で広く普及しています。出産時に病院サンプルのSimilacを配布していたります。主成分は水・脱脂粉乳・ラクトース・高オレイン酸ベニバナ油・大豆油・ガラクトオリゴ糖・ココナッツ油・濃縮ホエーたんぱく質です。また、ベビーミルクメーカーとして50年以上の歴史を持つAptamil(アプタミル)はスイスのメーカーでダノングループです。そこから液体ベビーミルクが販売されています。可能な限り母乳に近づけたフォーミュラでできています。ロングライフ牛乳と同じUHT(超高温滅菌)処理が施されています。その他にもいろいろな液体ミルクがあります。
海外では一般的な乳児用液体ミルクですが、現在、国内販売が認められていない日本でも液体ミルクを解禁する方向です。粉ミルクが主流の日本では、乳児用乳製品の規格を定める厚労省令や消費者庁通知で「粉末状」など粉ミルクを前提にした文言が使われ、液体ミルクは想定していません。食品衛生法には乳児用調整粉乳(粉ミルク)の規格基準しかありません。液体ミルクについては規格がないため製造も販売もできません。
海外製品を輸入する場合は「乳飲料」の規格となるため、乳幼児用として販売することができません。そこで2017年度以降、業界団体に安全確認の試験実施を求め必要なデータなどがそろえば、食品衛生法に関する厚労省令など関連規定を改正する前向きな方針です。しかし、日本乳業協会は製品化に少なくとも数年を要するとの見通しを明らかにしています。
液体ミルクは、あらかじめ液体の状態で容器に保存されています。粉ミルクをお湯に溶く必要がないため手間が省けるうえ外出時の荷物も少なくなります。欧米で広く普及している液体ミルクはパックから哺乳瓶に移し替えるタイプと小型のペットボトルのような使い切り容器に吸い口をつけて直接、赤ちゃんに飲ませるタイプがあります。
乳児用ミルクは成分が牛乳よりも母乳に近く、乳児に必要な栄養素が添加されています。封を開ければすぐに飲ませられるのが特徴です。液体ミルクの販売解禁で育児の負担軽減が期待されます。半年~1年は常温保存でき、粉ミルクよりは消費期限が早いものの災害備蓄品としても使えます。
母乳バンク
病気や早産で母乳が出ない母親もいます。そういう母親に代わり、別の女性の母乳を提供する日本初の「母乳バンク」が2014年に昭和大小児科(東京江東区)に誕生しています。搾った母乳を冷凍保存し必要とする病児や未熟児などに供給するシステムを採用しています。2015年には“子育て中の母親が笑顔で我が子と向き合える社会の実現”を目的として、同院医局内に、NPO法人・江東豊洲 子育て&母乳育児を支援する会(KOTOCLO)を設立しています。
母乳バンクは血液バンクと同様に母乳を保管・提供しています。使われる母乳は徹底的に安全を追求したものです。提供する女性は血液検査を受け、感染症の有無、飲酒や喫煙の習慣のチェックを経て、ようやくドナーとして登録されます。ドナーが自宅で搾乳してすぐに冷凍してバンクに送付。細菌検査や母乳成分の基準をクリアすれば、さらに62.5℃で30分間、低温殺菌処理されます。これで細菌がないことが確認されたものが、マイナス70度で冷凍保存されます。しかし、冷凍保存期間は3ケ月を限度とします。凍結保存した母乳は必要な時に溶かして飲ませます。解凍した場合、細菌が繁殖するため、24時間以内の利用が必要となります。
早産による2500g未満の低出生体重児は身体の働きが未熟で腸に穴があく壊死性腸炎や未熟児網膜症、慢性的な肺の病気などのリスクが上がります。母乳にはこれらのリスクを下げる成分が含まれており、出産から2~3日以内に飲ませることが有効です。早産では初乳を飲ませたくても母親も母乳を出す準備ができていないこともあります。小さく生まれた新生児は免疫の働きが不十分でさまざまな病気のリスクを避けるには母乳が効果的です。母乳には必要な成分が含まれており、免疫を上げ粉ミルクよりも消化・吸収されやすいのです。
粉ミルクには栄養があってもリスク軽減効果は期待できず、新生児の腸に壊死などのトラブルが起きやすくなる心配もあるのです。高齢出産や不妊治療による多胎などで低出生体重児の割合は増えています。
すでに、海外諸国では母乳バンクは普及しています。ヨーロッパ母乳バンク協会には27ケ国が加盟し、北米母乳バンク協会(カナダと米国)は216の母乳バンクがあり、16の母乳バンクが稼働しています。豪州・ニュージーランドには6つの母乳バンク、アジアでも中国・インド・フィリピン・香港に母乳バンクがあります。その他、母乳バンクが設立された国には、ポーランド・トルコなどがあり、北米や欧州でも毎年新しい母乳バンクが次々に設置されています。このように世界中の多くの国には母乳バンクがあり、ドナーミルクを提供する体制を拡大すています。
南米ボリビアでも2011年に母乳バンクが首都ラパスにあるラパス周産期医療センターに初めて設立されています。同様の機関は近隣国ではブラジルやエクアドルなどにも設立されています。米国では粉ミルクが普及していますが、母乳バンクも広がりを見せています。2011年に母乳バンク協会を介して配布された母乳は約62トン。需要が供給に追い付かないほどです。1オンス(約28g)あたり3~5ドルの有料で販売されています。提供はほとんどの場合、未熟児や虚弱児に限られています。
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