冷え


「冷え」は現代西洋医学ではまったく問題視されていませんが、東洋医学では古来から冷えというものを重視してきました。冷えには「冷え性」と「冷え症」があります。ずばり「冷え性」は本質的な冷え、冷え体質(全身性や体質的)。身体の冷えの自覚、絶対的低体温、数年続くものです。「冷え症」は身体各部の冷え症状、全身または特定部位の冷えです。


冷え症
冷え症は20~30分の常温の状態の安静時に、手先・足先・身体全体が冷たく感じる自覚症状のことです。実はこの冷えが肩こり・腰痛・関節痛を増幅し、その他、全身の倦怠感・頭痛・めまい・やる気がでないなどの症状を引き起こします。また、生理痛・月経不順・不妊症などの産婦人科疾患にも大きな影響を与えることがわかっています。大きく3種類に分かれます。
①末端型冷え症
手の指先や足先が冷たくなる冷え症です。血管が収縮することによって手足の先端に血液が行き届きにくくなるために起こります。夏場でも手足が冷えるという人は、この末端型冷え症の可能性があります。
②全身型冷え症

加齢による基礎代謝の低下や甲状腺機能の低下などが原因による冷え症です。夏場でも汗をかきにくくなります。
③内臓型冷え症

臓器が冷えていることによって起こる冷え症です。お腹を触ると冷たかったり、よく下痢をする人はこのタイプの冷え症の可能性があります。末端型冷え症と異なり、手足が冷えないのでポカポカしているので俗に「隠れ冷え症」とも呼ばれています。冷え症だと気づかずにいる人は、このタイプが多いです。 
『何かいつも調子がイマイチだ』『ひとつ症状がなくなると別の症状が出てくる』『年中、風邪ばかり引いている』『いつもダルい』という方はいませんか? そして肩こり・腰痛・関節痛・全身の倦怠感・頭痛・めまい・やる気がでない・生理痛が強い・月経不順・不妊症などの症状が続いているのは内臓型冷え症が引き起こしている可能性があります。
内蔵型冷え症の人は、手足を触ると温かい、汗をかきやすい、食事量は比較的多い、寒い所にいると下腹部・太腿・二の腕が冷える、冷えた時にお腹にガスが溜まりやすいです。この項目に2つ以上当てはまる場合は内蔵型冷え症の可能性があります。また、体温計を脇の下に挟んで10分間測定した結果が、36.3℃以下の場合は内臓型冷え症の可能性があります。

体温調節と自律神経
自律神経の機能全体をコントロールしているのは間脳の視床下部です。自律神経に支配されているのは、すべての内臓、全身の血管や汗腺などの分泌腺です。知覚神経や運動神経と違って、我々の意思とは関係なく独立して働いているので、一部の臓器以外の内臓や血管を自由に動かすことは出来ません。反対に意識しなくても呼吸をしたり、食物を消化し吸収したり、体温を維持するため汗をかいたりするのは自律神経のお陰です。
自律神経には2種類あります。「交感神経」は起きて活動している時に働く神経です。「副交感神経」は寝ている時やリラックスしている時に働く神経です。この2つは互いに拮抗したシーソー関係で働いています。
自律神経は一言でいえば内臓や血管などの働きをコントロールし、体内環境を一定に整える神経です。このことを生体の恒常性の維持(ホメオスターシス)と言います。生命維持に必要な体内循環を整えるのが自律神経の役割です。こうした機能がうまく働かなくなった状態が「自律神経失調症」です。
自律神経は体温調節において重要な働きをしています。体温調節には、体のさまざまな機能がかかわっていますがホルモン作用もその一つです。そして、ホルモン(アドレナリン・サイロキシンなどは体温上昇に作用する)を分泌する内分泌腺を支配しているのが自律神経です。また、汗腺も自律神経に支配されており、発汗を促進するのは交感神経、抑制するのは副交感神経です。
自律神経がうまく機能しなくなると冷えます。自律神経は喜怒哀楽などの感情コントロールの影響を受けているため、強いストレスが長期間続くと機能が低下してしまいます。また、自律神経はホルモン分泌をコントロールする神経とも密接な関係するために、妊娠・出産・閉経などにより、自律神経のバランスが崩れ冷え性になる女性が多いです。
そして、貧血でも冷えは起こりますし、低血圧により温かい動脈の血液が毛細血管まで届かないことで起こる場合もあります。 細動脈を支配しているのは自律神経です。これらが複雑に絡み合って冷え性を形成しています。

低体温
「冷え」は体の体温調節が上手に働かずに起こります。人には周囲の環境温度差に適応し調節できる機能が備わっています。その体温調節機能がトラブルを起こしています。皮膚には温度を感じる受容器(センサー)があります。何らかの原因で受容器から脳へ情報の伝達がうまく行きません。その理由はエアコンの普及に伴い、夏も冬も室内の温度が一定となったことが大きな要因です。一定の温度下に長時間いることで体は季節の変化に対応する体温調整能力が著しく低下しているのです。また、過暖房・過冷房の室内環境と外界の急激な温度差に体が対応できなくなっていることもあげられます。また、夏も冬もビールやジュース・アイスクリームなどの冷飲食物が溢れています。
エアコンの普及に伴い日常生活で汗をかくことも減り、日本人は確実に汗をかくのが下手になってきています。発汗は体温調節以外にも蓄積された体内毒素の排泄もしています。汗をかけない上に、運動不足では自律神経機能が低下して「低体温」を招くこともあります。
「冷えは万病の元」と昔から言われるように、平熱が低いと身体にさまざまな不調が出やすくなるのです。慢性的に36度未満の低体温では酵素の働きや免疫機能に関わる重要な要素が働きにくくなります。体温がわずか1度下がるだけで免疫が30~40%も低下するとされています。低体温は病気ではありませんが、生活習慣が不規則になりがちな現代の女性に多いのです。
低体温の原因の多くは生活習慣にあります。その原因には運動・筋力不足、栄養の偏り・食生活の乱れ、睡眠不足があります。デスクワークが多い現代人は運動不足に陥りがちです。体温を作る産熱は40%強が筋肉で行われ、その熱を運ぶのは血液です。運動量が低下すると筋肉量も低下し、代謝や熱の生産が弱まってしまいます。筋肉を動かすことで身体の隅々まで血液が循環し、低体温や冷え性を改善することができます。

産熱
人体には体温調節機能が備わっており、体温を一定に保つために主に3つの働きがあります。①末梢血管の血液循環量の調整(血管の拡張、収縮による循環調節)、②筋肉の収縮運動による熱産生、③脂肪蓄積による保温効果。この3つの働きで人間の体温は一定に保たれます。
体温は血液によって運ばれます。つまり血流が悪いと、末梢まで温かい血液が行かず冷えてしまいます。また末梢の毛細血管は血流は凄く遅いのです。そして外気温の影響を受けるので体表の温度は低下し冷えます。外気温が下がると身体の中の熱を外に逃がしたくないために、身体を硬くして体表の血液循環を低下させて体温を外に逃がさないようにします。
そして、身体を緊張させることで筋肉が収縮し熱産生が行われます。また、筋収縮によって血流が低下することで放熱を防ぎます。そして、脂肪組織による保温効果(脂肪組織は血液循環が悪い)となります。このような働きで熱を体内に蓄積し身体の機能を安定させようとしています。
血液循環を低下するように体が反応するので、末梢の循環障害を起こします。つまり血の巡りが悪くなり冷え性になるのです。また、筋肉の血液循環もが緊張や筋収縮によって低下するので筋の代謝産物(老廃物)がたまってきます。乳酸などが肩こり、頭痛、腰痛の原因にもなります。
つまり、冷え性や肩こりなどのつらい症状を取るためには、血液循環を良くして筋肉を弛緩させる必要があります。もっとも有効なのが温めることです。温めることで収縮した血管を拡張させて血液を流れやすくします。血液が流れるようになると筋肉内にたまった老廃物が排出されやすくなり、乳酸によって引き起こされていた筋肉の硬直が解消されやすくなります。鍼灸治療が冷えに効果があるのは血液循環を改善することによります。

靴下を履いて寝るのはNG
不妊症で来院する方の中には「温活」をしている方も多いです。4~5枚の靴下を重ね履きすることで高いデトックス効果が期待されるそうです。靴下を重ね履きすることで汗腺が多い足底は発汗します。ポイントは絹の靴下で体を温めるて毒素を吸い取り、綿の靴下で絹が吸い取った毒素を受け取るそうです。
また、『足が冷たく眠れないからと言って靴下を履いて寝る』というお話をよく聞きますが、普段履くような靴下は足首を圧迫し、かえって血行を悪くし冷え性を悪化させてしまうのです。どうしても履かないと眠れないというのであれば、足首部分のゆるいレッグウォーマーを選びましょう。

冷え性の改善
①運動・筋力不足
筋肉を動かし熱生産を促進し、その熱を手足の末端まで運ぶ血液の循環を良くするためにも、極力歩いたり、下半身では1番大きな大腿筋を使うゆっくりとしたスクワットがオススメです。運動量が低下すると筋肉量も低下し、代謝や熱の生産が弱まってしまいます。筋肉を動かすことで身体の隅々まで血液が循環し低体温や冷え性を改善することができます。
① 栄養の偏り、食生活の乱れ
過度なダイエットで食事量を少なくすることによる栄養不足や、不規則な食習慣は体内リズムや体内の働きを弱め基礎代謝が低下します。冷飲食物の過剰摂取による低体温は肥満にもつながります。実は食事も産熱するひとつです。食後に身体がポカポカ温まる経験は誰しもあると思います。食べた物を消化する際に食事誘発性熱産生(DIT)というがあります。よく噛んで食べたり、身体を温める作用のある食品や血行を良くする食品を選ぶことで体温を上昇させることができます。お肉などでタンパク質を積極的に摂りましょう。
身体を温める飲食物は沢山あります。冷え性に効果が高い栄養素はビタミンEとビタミンCです。ビタミンEは血行をよくする働きと体内のホルモン分泌を調整するはたらきがあります。主に穀類・豆類・緑黄色野菜などに多いです。またビタミンCは、血液の主要な材料となる鉄分の吸収を促進し毛細血管の機能を保持するはたらきがあります。主にフルーツ類、ブロッコリー、芋類などに多く含まれます。ネギも冷え性に効くといわれる野菜です。基礎代謝をよくする食べ物は根菜類です。とうがらしなどの香辛料やにんにく、しょうがなどは血管を拡張し体内の脂肪を燃やして体温を上げる効果があります。しかし、身体を冷やす生野菜の摂り過ぎには注意しましょう。
オススメ食品は生姜(しょうが)です。生姜が冷え性にいいという理由は、生姜に含まれる「ジンゲロール」を加熱すると血管拡張し血行を良くしてくれる「ショーガオール」という成分に変化します。加熱の方法によってもショーガオールの量は違います。生姜を煮ると生の状態の3.8倍、炒めると5倍にもなるので、炒めものに生姜を使うと良いでしょう。
緑茶は体を冷やします。発酵させたお茶系は体を温めます。ウーロン茶や鉄観音は中国では人気です。アイスクリームは身体を冷やすというだけでなく、糖分には血液中の中性脂肪や血糖を増やし血行を悪くする働きがあります。冷え性の方は甘い物を控えましょう。
③睡眠不足
ストレス過多や不規則な生活による自律神経失調など生活習慣に長期の乱れにより冷え性は起こります。生活リズムの乱れは体内の働きを弱めてしまいます。体内の修復作業は寝ている間に行われますか、ら睡眠不足が続くと体内の働きが弱まるだけでなく肌の生まれ変わりであるターンオーバーをはじめとした細胞の生まれ変わりも滞ることになります。睡眠不足は低体温を招くだけでなく肌や髪などの健康も大きく損ねてしまいます。
④衣類
『ファッションは我慢』と言いますが、とにかく寒さ我慢は禁物です。冷えを感じるようでしたら温めましょう。あまりピッタリした服装ではなく、少しゆとりのあるものを重ね着する方が良いです。衣類の隙間の空気層が保温作用をします。冷え対策のポイントは首元・肩先・足首です。暑い季節はスカーフや膝掛けで冷防しましょう。
⑤入浴
静脈の血流れが悪いと血液の渋滞を起こしていることになります。温かい動脈血が体中に行きわたる前に冷えてしまう訳です。この状態を「静脈のうっ血」といい手足の末端や下腹部(骨盤内)でも起こり冷えを訴える原因になります。東洋医学ではこの状態を瘀血(おけつ)といいます。
冷え解消には、まずは汗をかける身体にしましょう。熱いお湯に入った方が温まる気がしますが、身体の表面が温まるだけですぐに冷めてしまうので、少しぬるめのお湯にゆっくり入ったほうがイイです。40℃前後の湯加減がオススメです。もちろんサウナや岩盤浴を活用するも良いです。リラックスして副交感神経優位になります。血流も良くなり安眠効果も期待できます。
 また、末梢の毛細血管の形成不全でも冷え性になります。皮膚表面の毛細血管の血行不良となるためです。温水と冷水を交互に1分間程度手足を浸す方法は、毛細血管の形成を高め冷え性の改善効果があります。

冷え性 鍼灸治療
冷えには鍼灸治療がオススメです。冷えですから「お灸」がオススメです。クーラーの効いた部屋や冬場は特に内臓が冷えてしまいます。足にお灸をするとお腹の中の血流が良くなり温まって来ます。女性では足三里(あしさんり:膝の外側のくぼみから指幅4本下ったところでもっともくぼんだところ)、三陰交(さんいんこう:内くるぶしから指幅4本上に上がったところ)などにお灸を続けると効きます。
「ビワの葉温灸」はビワのエキスを棒灸(スティック状になったお灸)の遠赤外線効果でジンワ~リと温めていきます。当院は自家製のビワの葉エキスを使っています。腹部や腰部に行いますと、身体の芯まで温まります。
『内臓が冷えているな』と感じたらお腹にカイロを貼るのも良いです。おへその1~2㎝くらい下の下腹付近に貼りましょう。温かくなって来ると汗をかいて低温やけどしやすいのでご注意ください。
また、漢方薬には人参湯(にんじんとう)や真武湯(しんぶとう)など冷え性に良く効くものがあります。

 

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