逆子の灸
4,000人の治療経験と実績 復位率87%
当院からほど近い無痛分娩で知られる東京衛生病院さまと地域医療連携しております。逆子では帝王切開となり、希望の無痛分娩ができません。ですから、逆子の妊婦さんが病院から紹介されて多数来院しています。すでに、のべ約4,000人(2016年12月現在)の方を治療しております。妊娠34週までの復位率は約87%となっており、治療効果において高い評価を得ています。
逆子の灸
当院は無痛分娩で知られる東京衛生病院さまから逆子の妊婦さんが紹介されて来院しています。逆子体操よりも逆子の灸の方が頭位への復位率が高いのです。切迫早産などで入院している方も、35週を過ぎると外出許可をもらって来院しています。
妊娠30週では15~20%が逆子です。自然に頭位の戻る場合もありますが、こういう場合は数週間後に再度、逆子に戻ってしまう方がおります。
逆子の灸により子宮動脈や臍帯動脈の血流を改善し、子宮の筋肉を弛緩させ胎動を容易にして胎位矯正を促すと考えられています。お腹の中の血流が良くなり、子宮も柔らかくなるので胎動が活発になります。血流が良くなるので妊娠中で便秘がひどいという方も便通が改善されたりもします。
治療方法
逆子の灸で使う基本ツボは、三陰交(さんいんこう。うちくるぶしの最も高いところから指幅四本上で脛の際)と至陰(しいん。小指の爪の外側)となります。しかし、これだけでは復位率が高くありませんので、当院が独自に選んだツボを数か所足します。これにより、妊娠34週までの復位率は約87%となっており、治療効果において高い評価を得ています。
お灸は棒灸・台座灸・直接灸などを使い分けます。棒灸や台座灸で三陰交に温熱刺激を与えます。棒灸は温かく、台座灸はちょっと熱いです。至陰の直接灸は台座灸よりも、さらに刺激が強くなります。お灸が基本ですが、鍼の上にお灸を付ける灸頭鍼(きゅうとうしん)を使うこともあります。
治療回数
病院から紹介されてくる方は、妊娠30週前後の方がほとんどです。この時期は検診も2週間に1回です。週に2回治療を受けに来ると、次の検診までに合計4~5回治療を受けられます。その結果、妊娠34週までの復位率は約87%となっています。妊娠後期では胎児も週単位で大きくなります。34週以降は刺激量を増やさないと戻りにくいです。1日おきに治療を受けに来る方がほとんどです。妊娠後期で逆子が続いていると焦る気持ちは解ります。しかし、焦っても治りません。しっかり定期的に治療を続けてもらうのが一番です。
自宅でお灸
当院では自宅で8~10ヶ所お灸をしてもらうように指導しています。ツボの位置も赤くマークをつけさせていただきます。自宅では「台座灸」という初心者でもやりやすいお灸で行っていただきます。
基本的に1日に1回、夜の就寝前にやっていただきます。産休に入っている方やお腹が張っている方は1日の2回、昼間にもやっていただきます。昼間に逆子の灸を行った後には、10~20分間横になってもらいます。その時は楽な体位で寝ていただきます。結局、母親がリラックスしている時の方が逆子の復位率は高いです。切迫早産気味で自宅安静という方も、お灸を続けることでお腹の張りも和らぐという方が多いです。
三陰交や至陰というツボをマッサージしたり、爪楊枝で刺激するイイというような助産師からのアドバイスもあるようですが、そのようなことをやらなくてもお灸で十分に戻ります。逆子が戻っても三陰交にだけはお灸を続けてもらいます。これは、また逆子に戻るのを防ぐためです。また「安産の灸」にもなりますので、最後まで続けてもらうのをお願いしています。
逆子で初めてお灸をする方が90%以上ですが、皆さん上手にできています。自宅でのお灸は補助的な治療ではありますが、妊娠後期に短い時間ですが、じっくりと赤ちゃんと向き合う時間になります。妊娠32週頃には赤ちゃんの耳も聞こえていますから、話しかけたりしながらたってもらうには最適です。
治療成績
妊娠30週前後から逆子の灸を行うと、妊娠34週までの復位率は約87%です。34週まではかなり治療成績は良好です。その後は徐々に復位率が下がります。週単位で胎児も大きくなり、物理的に戻りにくくなります。
復位した後も三陰交にだけは自宅で台座灸を続けていただきます。これは、また逆子に戻ってしまうのを防ぐためです。一度戻ったのに、また逆子になってしまう例は1%未満です。こういう方には、また通院と自宅でのお灸を再開していただきます。こういう方もほとんど復位して経膣分娩になっています。
しかし、2~5%の方が逆子が戻らないのです。子宮筋腫などがある方(復位率は約50%)、骨盤が狭い細身の方などに戻りにくい傾向がみられますが、はっきりしたことは解っていません。臨床経験から逆子体操よりも、逆子の灸の方が頭位への復位率が高いと考えられます。
日常生活上の注意点
当院での逆子の灸での復位率は妊娠34週までは約87%です。残り13%が何らかの原因で戻りにくいということになります。治療しても2~5%の方が逆子が頭位に復位しません。つまり、10%前後では逆子になりやすく、逆子が戻りにくい理由として日常生活上の要因があります。
①冷え
逆子の患者さんが増えるのは、ゴールデンウィーク明けから10月までです。寒い季節は防寒をしっかりしますので、それほど増えませんが、暑い季節に増えます。その理由は「冷え」です。冷房やドライをつけた部屋で、素足で生活している方が多いからです。冷たい空気が下に流れ床面に溜まり足首が冷えます。妊婦さん自体は高温期が続いている状態ですから、あまり冷えを実感しません。しかし実際に下腿~足首の血液温度はかなり低下します。
夏でも治療していて『足が冷たい』と感じる方の、足を赤外線温度で測定すると25℃前後の方がおります。平均体温よりも10℃以上低くても、冷えを感じていない方が多いのです。足首が冷えるとお腹の中も冷えます。足の冷えたい血液がお腹の中に入って来ると、ドンドン新鮮な血液が運ばれてくる温かい子宮から熱を奪います。結果的に子宮は血流が悪くなり硬くなります。胎児は生得的に頭位に戻ろうとしますが、子宮が硬くては動こうにも動けないのです。
暑い季節は冷房で足元が冷えないように「内くるぶしが隠れる靴下」を履いてもらいます。自宅では勿論、スーパー、デパート、レストランなどの外出先はもっと冷房温度が低めに設定されていますから、こういう時もキチンと履いてもらいます。就寝時には靴下は履かないでください。さらに暑いですからアイスや氷を入れた麦茶などの飲料水を多く摂る方がいます。これにより、直接お腹の中が冷えて血流が悪くなります。冷房で外側から、冷たい飲食物で内側からダブルで冷えてしまうと、逆子になりやすく、逆子が戻りにくくなります。暑いので冷たい飲食物を全部止めてくださいとは言いません。戻るまでは今の半分までは減らしてください。
ついでに、37週未満で産まれる早産の割合は「冷え症」の妊婦さんは6.7%。冷えていない方は1.9%。喫煙や過去に早産の経験があるなど他の影響を除外して解析すると3.4倍の早産のリスクがあり、分娩時間が長引くリスクは2倍以上という追跡調査結果があります。冷えは確実に逆子に影響していると日々の臨床で感じています。
②仕事
お仕事をしている方も、逆子になりやすく、逆子が戻りにくい傾向にあります。お腹も大きくなってくると、周囲の方から『〇〇さん、座っていて』などと言われることも多いでしょう。デスクワークで長時間同じ姿勢で座り続けるとお腹の中がうっ血します。結果として、お腹の血流が悪くなり、子宮は血流が悪くなり硬くなります。ですから『いつもより遠いトイレに行ってください』、『こまめに飲み物を取りに行ってください』などとお願いしています。頻繁に動くことでお腹がうっ血しにくくなります。
「労働基準法」や「男女雇用機会均等法」などの法律により、産前6週間(多胎妊娠では14週間)、産後8週間の休暇が義務付けられています。ですから通常、会社員では妊娠34週まで働くことが可能です。妊娠34週まで目いっぱい働いている方は、長時間の座り仕事で下肢の血流も滞りがちですし通勤も負担が大きくストレスが多いのではと推察されます。その影響により逆子が治りにくい傾向にあります。
妊娠後期は出産に向けての体力作りもあり『できるだけ歩くようにしてください』と指導されたりします。歩くことは下肢の血流を良くしてくれますし、会陰部の筋肉も柔らかくなるのでオススメです。ウォーキングする時間もないという方は、2秒程キープする爪先立ち運動をしましょう。それもNGの方は寝ながらでも足首の曲げ伸ばし運動をしましょう。下腿の血流を改善するエクササイズもオススメです。無理のない程度に行いましょう。
アロマ効果
お灸の原材料は「ヨモギ」です。中国で古くから生薬として利用されてきたヨモギの葉は艾葉(がいよう)といいます。ヨモギ独特の香りのもとである精油成分の「シネオール」や「α‐ツヨン」は身体を温め胃腸を丈夫にし、冷え症・腰痛・月経痛・貧血・整腸などに作用します。欧州でも不妊症や関節リウマチに効果のある薬草として用いられてきました。妊娠後期に睡眠障害で寝つけなかったり、長時間熟睡できなかったりすることが多いです。お灸を始めるとヨモギのアロマ効果で『良く眠れるようになった』とおっしゃる方が多いです。
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