60 高齢出産


高齢出産
53晩婚化により晩産化は増えています。35歳以上の初産が高齢出産といいます。35歳以上の出産でも2回目以降の出産に関しては高齢出産とは言いません。初産と2回目以降の出産では産道の柔らかさや骨盤の状態などが大きく異なるからです。現在では30歳以降を高齢出産予備軍ともいいます。
あるアンケートでは53%が体外受精をすれば45歳まで妊娠できると考え、50歳までできるという人も17%いました。「卵子の老化」を知らないまま、不妊治療すれば子供が授かると思っている女性が多く、その誤解が不妊の急増の一因です。タレントや有名人の高齢出産が報道されているので『自分も大丈夫』と考えるのは早計過ぎるようです。30歳中頃では『まだまだ妊娠は余裕』という声もあります。しかし、米国では32歳になっても通常の性生活を送っても妊娠しない場合、2人揃って不妊治療クリニックを受診するのが標準的です。
高齢出産はさまざまな身体的なリスクを伴います。最大のリスクは妊産婦死亡の高さです。40歳を過ぎると20~24歳の妊婦の20倍以上との報告もあります。その他、難産になりやすい、流産・早産しやすい、ダウン症候群などの染色体異常が起こる確率が高い、妊娠高血圧症候群などの妊娠中毒症になりやすいなどがあります。しかし、医療の進歩のお陰で年齢の高い女性が安全に出産できるようになってきています。不妊治療はホルモン値の変化や卵子の発育状況をみながら、薬の種類や量、採卵の時期を調整し最適な体外受精のタイミングを測ります。不妊治療の進歩の結果、日本国内での出産年齢は35~39歳での出産が20%、40歳以上が3%と高齢出産は約6倍に増えています。2014年には50歳代で58人が妊娠出産しています。

原始卵胞の減少
女性は在胎20週頃になると胎児の卵巣には約600万個の原始卵胞が存在すると言われています。卵巣内の原始卵胞はその生涯のほとんどが休眠しています。休眠しているにも関わらず生まれ持った原始卵胞の蓄えは出生後には200万個に減ります。時間経過とともに減少し続け、16~20歳には19万個、21~25歳では12万個、26~30歳では7万個、31~40歳では5万個前後、40歳を超える頃には0.5万個(5000個)を割ります。原始卵胞数の減少は卵細胞の有糸分裂の停止や閉鎖卵胞としての退行変性などが原因とされています。また化学物質も生殖細胞数を減少させるという調査結果もあります。原始卵胞の年齢と個数に関するデータは資料によりマチマチですが、顕著に減少していくのは事実です。
 原始卵胞から卵胞形成は非効率で、生涯でわずか400個程度の卵胞だけが排卵前段階へ到達します。初経後の思春期を経て性成熟期には毎月一回の排卵が繰り返されるとともに卵胞数は減少し続け、年齢とともに排卵される卵子の質が低下してゆくと考えられています。自然妊娠率は30歳を過ぎると低下し始め、40歳中期頃には妊孕力を失います。妊娠率の低下は排卵される卵子の質の低下による妊娠率の低下と流産率増加が原因とされています。体外受精でも胚移植による妊娠率は40歳を越えると、妊娠率が著しく低くなります。
排卵される卵子がすべて正常な状態という訳ではありません。高齢出産では染色体異常なども起こりやすく、流産やダウン症(21番の染色体トリソミー)などの染色体異常児の出産リスクも上昇します。一般的には35歳未満の妊娠における自然流産率は約10%ですが、35~39歳では約15%、40歳以上では25%程度と報告されています。
高齢出産は以前は妊娠中毒症と呼ばれていた妊娠による糖尿病、高血圧、高脂血症などの妊娠合併症のリスクもあります。高齢出産であっても妊婦健診を定期的に受診し、しっかりリスク管理がなされるならば不必要に不安になることはありません。


産みたいのに産めない
晩婚・晩産化による卵子の老化により「産みたいのに産めない」という現実があります。日本は不妊治療専門クリニックが世界一多く、体外受精の実施数も世界一です。不妊の検査や治療を受けた事のある夫婦は6組に1組、体外受精の実施数は36万8764件(2013年)で、この治療の結果、出生数は約4万2554人と治療件数の1割ほどです。
国立成育医療研究センターの齊藤英和医師は、「妊娠適齢期を逃して慌てて治療を受ける夫婦が増えているのが実態で、20代から30代前半の時期に仕事と出産・子育てを両立できる社会づくりを急ぐべきだ」と指摘しています。女性の社会進出を進める一方で晩婚化、妊娠、出産を考慮してこなかった日本独特の社会構造の欠陥により対策が遅れ、ここに来て深刻な事態に陥っているという指摘もあります。
女性の卵子は加齢とともに劣化し、35歳で出産できる可能性は20代の半分になるとされています。ある不妊治療クリニックでは『高齢出産となる35歳を超えてやってくる患者が年々増え、今では70%を占める』と言っています。
不妊の原因は年を重ねるほど卵子の質が低下する「卵子の老化」です。体外受精では採卵が必要ですが、排卵誘発剤を使い卵巣の卵胞の中に卵子を専用の針を使って吸い出し素早くシャーレの上に移し卵子を確認します。しかし年齢を重ねると卵子のない空の卵胞が増えてしまいます。受精可能な卵子が見つかれば顕微受精します。本来の受精卵は活発に細胞分裂を繰り返しやがて胎児へと成長していきます。しかし、40歳の女性の受精卵は受精から4日で3つのうち2つが成長停止してしまいます。30歳代後半からはこうした質の低下した卵子の割合が増えていくのです。体外受精で出産できるのは35歳で16.8%、40歳になると半減し8.1%。45歳では0.5%まで下がりますから200人に1人です。大きな原因は卵子の数・質の低下と着床率の低さです。
Menkenらの報告(Menken J,et al.Age and infertility. Science. 233:1389-1394, 1986)では、17~20世紀における女性の年齢と出産数について、年齢の増加に伴い(特に35歳以降)出産数の低下が認められています。
不妊治療は日進月歩で進んでいます。高齢出産になる女性の妊娠率向上などを目指して、本人の卵巣から採取したミトコンドリアを卵子に注入する自家移植治療があります。米国企業が中心に開発した「卵子若返り」と呼ばれて一部で注目されている手法です。2015年12月に日本産科婦人科学会の倫理委員会は、自家移植治療について臨床研究として実施することをすでに承認しています。

卵子凍結保存
卵子凍結の「ガラス化保存法」を開発したのは生殖工学の桑山正成博士です。凍結する細胞内の水分を特別な溶液に置き換え氷の結晶を作らずに瞬時に凍らせる方式です。海外では標準的な予防医療技術で、ガラス化保存法は世界中で100万症例以上実施されています。日本ではガン患者さんが治療の影響で不妊になることを防ぐために、未婚であっても治療前に卵子凍結することは日本産科婦人科学会の臨床研究として事実上実施を認められています。
56女性の晩婚化・晩産化が進む中で不妊治療の初診患者の平均年齢は、以前は30歳代前半だったのですが、ここ数年で一段と上がり38~39歳のアラフォー世代が中心で患者の約半分が40歳代です。この傾向はこれからも同じように推移するでしょう。キャリアを積む女性が増えてきた現代に高齢出産が増えるのは当然です。
健康な女性が将来の出産に備えて凍結卵子をする「卵活」は日本ではごく最近の現象です。将来的に凍結卵子を使って体外受精などの不妊治療に使うためですが、必ずしも妊娠や出産が可能になる訳ではありません。また高齢でも若い卵子があれば安全に出産できるとの誤った認識が広がる恐れが懸念されています。日本の未婚女性にも広く認められるべきとの意見もあります。しかし、健康な未婚女性の卵子凍結については何のガイドラインはありません。
高齢不妊の予防として卵子凍結保存を行うクリニックも限られています。現在、国内で卵巣組織凍結が可能な施設は6~7施設です。日本生殖医学会は健康な未婚女性の卵子凍結保存が無秩序に広がるのを防ごうとガイドラインをまとめています。まず年齢などが原因で不妊になる可能性が懸念される場合、卵子凍結できるとして健康な独身女性の卵子凍結を認めています。その上で「卵子凍結をするのは40歳以上は推奨できない」、「凍結した卵子で不妊治療を行うのは45歳以上は推奨できない」としています。その他「保存や治療について女性に十分説明すること」や「女性が死亡した場合は廃棄する」などとしています。誤認がないように「(指針は)卵子保存を推奨するものではない」としています。しかし指針に法的拘束力はありません。
57ここ数年で卵子を凍結できる技術はほぼ確立したといわれています。しかし、凍結保存の卵子が受精するかどうかはまた別問題です。理論的には大丈夫だが凍結された卵子の10年後、20年後を誰も知らない。出産にたどり着くには精子とのマッチングがあるし、母体の老化の問題もあります。
凍結保存卵子による妊娠には技術面や安全面などの課題があります。技術面では卵子は凍結や解凍する過程で壊れてしまう場合もあるほか、妊娠するには体外受精する必要があり、2012年に不妊治療中の夫婦が凍結卵子を使った治療で出産に至った割合は6%余りにとどまっています。卵子をいくつ凍結しておけば出産ができるという保証はなく、数多く保存したとしても1人も子どもを授からない可能性もあります。
 米国における凍結保存卵子からの出産成功率は35歳以下の女性の卵子で平均40%です。38歳~40歳の女性になると22%に減少します。そして、受精卵の凍結保存の場合、もし使わなかった場合にその受精卵はどうなるのかという倫理的問題があり、受精前の卵子凍結保存も同様です。
 現在、日本には卵子凍結や体外受精などを規制する法律はありません。学会などの指針などでルールが決められています。しかし晩婚化により年齢が上がると妊娠が難しくなる「卵子の老化」が知られるようになり、健康な独身女性の間でも若いうちに卵子を採取する動きが広がっています。

キャッチアップ障害
58卵巣と卵管は直接つながっていません。排卵された卵子はをキャッチするのは卵管采(らんかんさい)です。卵管の先にある卵管開口部で手掌を広げたような形をし排卵に合わせて卵巣に近づき、卵子を卵管内に取り込みます。卵管采で確実に卵子がキャッチされないと卵管に取り込まれません。受精は卵管膨大部で行われますから、結果として妊娠にいたりません。
 不妊症の原因のひとつにキャッチアップ障害やピックアップ障害(卵管采不全)があります。不妊クリニックでいろいろな検査を行っても不妊の原因が不明であったり、また、原因と思われる異常を治療しても妊娠しない場合の半数は、卵管采による卵子の補足障害と考えられます。
なぜ卵管采が機能しないのか? その理由として最も多いのは「卵管癒着」です。卵管が動けない状態になっているために、卵巣に近づけず取り込めないと考えられています。また、卵管に子宮内膜症などで炎症があり、それにより機能不全を起こす場合もあります。さらに卵管水腫やクラミジア感染の既往歴がある場合には卵管采周囲の癒着も考えられます。そして加齢による卵管采の動きが低下するのではないかとも考えられています。その他、便秘による卵管の圧迫、ストレスによる卵管の動きの抑制、卵管采の分泌細胞や線毛細胞の異常などが考えられます。
卵管癒着の検査には「腹腔鏡検査」があります。おへその下を1~2㎝切開し、お腹を炭酸ガスで膨らませ、直径1㎝程の内視鏡を挿入し腹腔内の様子をモニターリングし、癒着などがあればレーザー治療あるいは焼灼を行い癒着部位を切除します。この検査でキャッチアップ障害が全て解決する訳ではありません。
 タイミング法や人工授精でなかなか良い結果につながらない場合、さまざまな検査を通してキャッチアップ障害が疑われます。しかし、排卵された卵子を卵管でキャッチする実際の過程を肉眼で確認することはできません。不妊検査では明確に診断することはできません。キャッチアップ障害ではタイミング法や人工授精で妊娠に至るのは難しいです。ですから、体外受精を勧める不妊クリニックも多いです。

第二子不妊症
35歳以上の出産は俗に高齢出産と呼ばれています。当初は『一人でも授かれば・・・』という思いですが、一人目が1~2歳くらいになると、『一人っ子ではかわいそうだから』などの理由から第二子を希望します。第一子がすでに高齢出産であれば、第二子ともなると母体も老化しています。本人は『できて当然』という思いと裏腹に体の方ではできにくくなっています。
1回目の妊娠・出産により、体内の妊娠環境が大きく変わっています。ある人はできにくくなるだろうし、ある人はできやすくなるかもしれません。第二子不妊症で子供ができにくくなる人の理由には加齢、夫との性生活の減少、卵管の癒着や動きの活性の低下、授乳状況(プロラクチン分泌)などが影響していると考えられます。逆にできやすくなる人は、禁欲生活からの解放による性生活の活性化や、規則正しい生活によるホルモンリズムの回復などがあげられます。
 特に第一子が普通にできて第二子不妊症という場合では、ホルモン値の低下など何らかの原因がある場合がほとんどです。当院に来院した方は2歳差で第二子を計画していましたが、第一子が小学生になってから第二子がおめでたとなりました。原因は「不育症」でした。その治療をしたら無事妊娠しました。まず自分の身体の状態を把握するためにレディースクリニックなどを受診して検査や相談することを強くオススメします。
最近では「二人目の壁」などと言われます。子どもを1人育てるのに約3000万円かかるといわれています。家族を増やすために治療して妊娠・出産に費用がかかり、家族が増えれば大きな出費が必要となると考えると夫婦にとって二人目はかなりの経済的負担になります。平成23年の全給与所得者に占める年収300万円以下の人口割合は40.8%でした。日本の労働人口の約4割が年間の収入が300万円以下であるという結果が出ています。そして男性平均年収は504万円だったのに対し、女性平均は268万円。年収300万円以下の人口割合も男性23.9%に対し、女性が66.1%と男女間での収入格差がみられます。現在の日本では経済的基盤がぜい弱な夫婦にとって子どもを産み育てる環境が整っているとはいえません。

鍼灸治療で女性ホルモンは活性化し卵巣や子宮の血流が良くなるので妊娠しやすく、体外受精での採卵した卵子の質も良くなり受精卵の移植においても、子宮の血流が良くなっていると着床率も上がります。第一子の不妊症も色々と大変ですが第二子不妊症でお困りの方が多く来院しています。

高齢出産の有名人

高齢出産の難しさやリスクを乗り越えて無事に出産している人も実は多いのです。米国では不妊治療において鍼灸治療の併用は標準的な治療になって来ています。鍼灸治療によって妊娠率が向上する科学的な理由が解明されていない部分もありますが、鍼灸治療は卵巣や子宮だけでなく全身の機能を改善し、結果的に子宮などの局所循環だけでなく、全身の血行循環やホルモンバランスをよくし、子宮内に胚が着床しやすい状態に導くことなど、不妊症における鍼灸治療の有効性が多数報告されています。
 歌手のセリーヌ・ディオンさんは5回目の体外受精で流産を経験し、心身ともにボロボロになってしまいました。妊娠維持できる母体の土台作りと安定のために鍼灸治療を受け、6回目の体外受精で無事に妊娠し42歳で双子を出産しています。また、流産経験があるマライヤ・キャリーさんはセリーヌから鍼灸治療を勧められ、毎日鍼灸治療をしていていたとインタビューで答えています。2011年4月に41歳で双子を無事に出産しています。2人とも子供が授かったのは『鍼灸治療のおかげ』だと語っています。さらに人気TVドラマ・セックス&シティの主演のサラ・ジェシカ・パーカーさんも不妊治療に鍼灸治療を取り入れていたようです。しかし、44歳で代理母出産によって双子をもうけています。

その他、高齢出産ではニコール・キッドマン(40)は初めての実子を授かっています。初産ではないもののマドンナさん(41)は息子を出産、ハル・ベリーさん(46)は第2子を出産、ジョン・トラボルタの妻ケリー・プレストンさん(48)は3人目を出産。スーザン・サランドンさんは42歳・46歳のときにそれぞれ子供を授かっています。
2016年10月には歌手のジャネット・ジャクソン(50)が第一子の妊娠を公表しています。すでに妊娠中期のようですが、医師から絶対安静を言い渡されています。ジャネットの場合、若い頃に卵子凍結をしていたか、卵子ドナーから提供を受けての妊娠と推測されています。米国は少子化ではありませんが、全体で35歳以上の女性の妊娠が1970年から約8倍増加しています。
一方、日本でも諦めずに頑張って結果を出している女性は実に多いのです。1999年には作家の林真理子さん(44)は体外受精で妊娠し出産しています。2002年には不妊治療を続けていた田中美佐子さん(43)が出産。2006年にはジャガー横田さん(45)は長年不妊治療を続けていても授からなかったのですが、その後に自然妊娠して出産。2011年には野田聖子(55)が米国で卵子提供を受けて出産。2012年には不妊治療に7年間取り組んでいたラジオパーソナリティーの坂上みきさん(53)は第一子を出産しています。また、2013年に長女を出産した女優の吉瀬美智子(41)は2016年10月に第2子の女児を出産しています。
59不妊治療を続けていた東尾理子さん(36)は2012年には第一子を出産、2016年には40歳で第2子を出産しています。鍼灸治療も併用していたようで『ハリはいいよ』と著書の中で勧めていますし、主催しているお茶会では、不妊治療と併用して良かったものとして『鍼治療はやって良かった治療のひとつ』と語っています。

2008年11月、インドで70歳の女性が体外受精で妊娠し女児を出産したと報じています。2016年4月、同じくインドで自称70歳(施設側は女性の年齢を72歳と推定)の女性が体外受精で第一子となる男児を出産し「世界最高齢での出産」と報じられています。インドの人口の15%が不妊の問題に直面していると言われています。日本では毎年約100万人の赤ちゃんが誕生しています。そのうち、50歳代での出産は平均20人前後です。
先進国の中では少子化や不妊症が社会問題化しつつあります。先進諸国ではさまざまな病気に対し西洋医学をサポートし治療成績を上げるために、鍼灸治療が多く取り入れられています。全米の約半数の病院で鍼灸などの代替・補完医療が取り入れられています。その点、日本は西洋医学+東洋医学=統合医療は残念ながらまだまだ発展途上です。


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