発達心理学


乳幼児の脳
赤ちゃんの脳はコミュニケーションで成長します。新生児の脳にも140億ものニューロンという神経細胞が備わっています。脳内の1個1個の神経は直接つながっていません。ニューロンとニューロンの間にはシナプスという間隙があり、その間をセロトニンなどの神経伝達物質を介して他のニューロンと情報の伝達をしています。
赤ちゃんが見たり、聞いたり、触れたりと何か新しいことを経験をたくさんすればするほど、シナプスの数が増しニューロン回路(神経回路)が密につながって働くようにネットワークを形成します。
赤ちゃんは2歳までの間にシナプスの数が莫大に増加し、その後「刈り込み」が行われシナプスが精査されます。つまり、使わないニューロンや神経回路は減少していきます。これらを「ニューロダーウィニズム」といいます。ニューロン回路が密になり働くことが脳が発達するということです。脳を発達させるにはさまざまな刺激を与えて神経回路を密にすることが大事なのです。繰り返し同じ刺激を与えることで神経回路をよりしっかりしたものになります。これを「強化」と言います。
赤ちゃんは生まれた時から既にある程度の言語能力を持っていることは以前から知られています。カナダ・モントリオール大学の研究で出産直後から生後24時間までの新生児の脳波測定により、新生児が母親の声と他の看護師などの女性の声を聞いた時、脳の違う部分が反応していることが明らかになっています。新生児は母親の声を特別と本能的に認識しています。そして、母親の声は新生児の脳で言語の習得にかかわる部分を活性化しています。また、別の研究でも生後2~5日の新生児でも、話しかけると左大脳半球の血液量が増加することがわかっています。つまり、生得的に言葉を聞こうとして脳の活動が活発になります。
新生児の脳では授乳や抱っこなどの皮膚からの接触刺激に対する神経回路が生後1~2ケ月、母親の顔を見たりする目からの視覚情報を受け取る神経回路が生後3ケ月くらい、母親の声を聞いたりする聴覚情報の神経回路が2歳前後くらいに完成します。各感覚によって神経回路ができる時期は異なりますから、感覚をみがく教育はそれぞれの発達段階に合わせて行えば良いのです。
そして、見る・聞く・触れる・匂いをかぐ・味わうといった感覚の回路は1歳くらいまでにほぼ完成します。身体の筋肉を動かす神経回路は1歳くらいまでに大人に近い状態まで完成します。つまり人間すべての脳力の基本となる重要な部分は1~2歳までにほとんど出来上がり、1歳頃には成人と同じような脳構造を持つようになります。
ですから、乳幼児の脳で活発にシナプスが作られ、シナプスの数が増しニューロン回路(神経回路)が密につながって働くようにネットワークを形成します。最大のチャンスは生まれてから1~2歳前後となります。有用な神経回路をどのくらい作っておけるかが大切です。この時期までに色々なもの見せて・聞かせて・触らせて・身体を動かしてあげるなどの刺激をたくさん与えることで脳が発達します。
1~2歳までの大切な時期に赤ちゃんに笑いかけることで、赤ちゃんは大人の表情を真似して笑顔を作れるようになります。話しかけたり、触れ合ったり、一緒に自然を感じたり五官で快感を得ることでシナプスの数がどんどん増えて行き、赤ちゃんのその後の人生を豊かにする基盤が出来ます。子どもがスクスクと成長していく上で、日常のコミュニケーションがとても重要です。首の据わり、反抗期など気になることも沢山出てきますが、母子の親密なコミュニケーションが、赤ちゃんが一人の人間として成長していくためにも大切な過程です。 

発育環境
人は遺伝的要因というか生得性に部分もそのヒトの性格などを形成するひとつの要因ではありますが、より多くの影響を与えるのが産まれた後の発育環境や母子関係などです。そして、それがお子さんのその後の人生に何らかの影響を及ぼすことはよく知られています。英国の研究によると、幼い頃に母親の愛情を適切に受けて育ったかどうかによって子供の脳のサイズが大きく左右されてしまうという結果を報告しています。
3歳児の脳をCTスキャンした画像では素人が見ても脳の大きさが、正常児と母親にネグレクト(育児放棄)という虐待を受けた子供では脳の大きさが違います(下図参照)。正常児は虐待児と比較すると賢く社会的スキルも高くなる可能性が大きいとされています。一方、虐待児の脳は最も基礎的な機能部位の成長が著しく欠けているため、そのまま成人するとドラッグ中毒になったり、暴力的な犯罪に手を染めたり失業する確率が極めて高いというのです。
2歳までにどう育てられるかが、その後の成長・発達に多大な影響を与えます。そして、生後2年の間に母親から適切な愛情を受けられないと、知能を含む脳の重要な機能の遺伝子が正常に働かなくなってしまい、しかもそれは2歳を過ぎていくらケアをしても一生取り戻せないダメージなるとされています。
また、こうした虐待児は成人してから同じ虐待行為を自らの子供にしてしまうケースが多く、負のサイクルからなかなか抜け出せなくなってしまいます。ただし過去に行われた米国の研究では早い段階で周りの家族や友人、公的機関などによる仲裁や支援があることで、この負のサイクルを打破できることも解っています。
これらは大脳生理学や脳神経学の話ですが、心理学の話とも合致します。脳は遺伝的な優秀さではなく生後の外部環境に左右されます。ですから幼児虐待はすべてにおいて問題があるのです。

フロイト「局所論」
ユダヤ人でオーストリアの精神医学者であるジークムント・フロイト(1856-1939)は精神分析を基調とする哲学の創始者です。人間が意識していない「無意識」を初めて扱ったフロイトの精神分析は「無意識の哲学」として非常に重要です。精神分析を広く援用する現代思想に大きな影響を及ぼしています。フロイトはマルクス、ニ-チェとならんで20世紀の文化と思想に大きな影響を与えた人物の一人です。無意識の精神過程の存在を大幅に許容し、夢や性格が形成されていく原動力として乳幼児期の性的エネルギーである「リビドー」を重視しています。
フロイトは「局所論」として心を意識・前意識・無意識の3つの領域に分けて考えました。心の中で意識している領域はごく一部であり、自分では気づかない「無意識」の領域が大きな働きをしていると考えました。私たちは日常的に意識や無意識という言葉を使っています。意識とは、通常意識されている意識のことです。無意識とは、自分では気づくことが出来ない“意識にのぼらない心の領域”です。そして聞きなれない前意識とは、普段は意識してないけれど、意識しようと思えばできる領域のことを指します。意識と前意識との間に「検閲」という防衛機制が働いていると想定しています。 防衛機制とは抑圧・転換・投影などです。
無意識の内部には本能的な様子がありますが、それは決して意識されることも意識に接近することもありません。そして、意識には無意識と一線を画し、無意識を検閲し抑圧する働きがあります。それは忘れ去られている訳ではなく、思い出すことが禁じられているといったところでしょうか。
無意識は個人の行動・思考・感情・記憶などの方向付けに大きな影響を与え意識に間接的に働きかけます。そして、無意識の働きには持続性と直接性があります。何十年前の記憶でも意識に昇ってきた時には、その情動的な力は少しも失われていないというのです。フロイトは『我々は経験によって、無意識的な精神過程がそれ自体で“超時間的”な存在であることを発見した。つまりこういうことである。無意識的な精神過程は時系列的に配置されておらず時間によって変化することも時間という概念が適用されることもない』と語っています。
ある意味で“三つ子の魂百までも”は正解です。幼い時の性質は一生変わらないものです。人格形成は遺伝要因の部分もありますが環境要因が大きな影響となります。心理学では3歳位までの幼児までに多くの基礎的なものが形成されるとされています。そして、この時期に発達していく脳の組織と機能にも大きな影響を及ぼします。乳児~3歳位までの最初のボタンの掛け違いが、後々の人生もずっとボタンの掛け違いのまま続くというのです。
ボタンの掛け違いは特に母子関係で起こります。乳幼児は母親がいなければ生存できませんし、乳幼児は母親に特に親愛の情を示すようにプログラムされています。それを虐待・ネグレクト(育児放置)・泣いても抱いてあげないなどの無視が最初のボタンの掛け違いとなり、その後、その子の人生で人格障害・感情障害・コミュニケーション障害などの生きて行くことに不可欠な部分が機能不全になる恐れがあるのです。
子育ては教科書通りにはいきませんが、心理学では小さい頃は良い意味で“良く甘やかして育てるのが良い”とされています。

フロイト「構造論」
フロイトは「局所論」では、人間の心は意識・前意識・無意識の3層から成り立っていると考えました。そして心の「構造論」としてエス・自我・超自我を提唱しました。
①エス
「イド」とも言われます。性の欲動によるエネルギーである「リビドー」の貯蔵庫です、リビドーはエスを突き動かす原動力です。 リビドーとは性の心的エネルギーのことです。性的本能とも言われます。そして、不快を避け快を求める快感原則に従います。無意識の領域に相当し本能的な欲求や衝動に支配されている部分です。食欲・睡眠欲・性欲など『〇〇〇したい』という部分です。
②超自我
「スーパーエゴ」とも言われます。多くは無意識の領域にまたがり、本能欲求に対する批判や禁止を行い、道徳・倫理・規則・良心的な機能を持っています。『〇〇〇してはいけない』という部分です。心の裁判官や検問者に喩えられ、快楽原則に従う本能的欲動を検閲し抑圧し後悔や罪責感といった感情をもたらします。『〇〇〇するな』という禁止だけではなく、『〇〇〇すべし』という良い行為を勧める働きもあります。『将来、自分は~になりたい』といった建設的な自我理想を作り上げる役割も果たします。
③自我
「エゴ」とも言われます。上記の2つのバランスを取る役割を果たし、現実原則に従って調整します。意識と無意識の領域にまたがり現実検討します。『〇〇〇したい』というエスに対し、『〇〇〇してはいけない』という超自我。そこで自我が『では、こうしよう』と決定します。例えば授業中に『おしっこしたい』というエス、『ここでおしっこしてはいけない』という超自我。そこで自我が現実検討し授業も終盤であれば『では、もう少し我慢しよう』となり行動を選択します。自我の強さが健全なパーソナリティの原点です。

このエス・自我・超自我のバランスが感情、思考、行動を決定します。これらを決定するのは乳幼児期の母や養育者と子の交流が大きく関係します。あまりせっかちにならないで頭で理解するだけではなく子どもとの気持ちの交流を大切にしましょう。

フロイト「性的発達理論」
フロイトの提唱する「性的発達理論」では新生児から思春期の発達過程を提示しています。
①口唇期
0~18ケ月。口唇領域に快感(リビドー)を得ると考えた1~1.5歳ぐらいまでの時期です。この時期は母子関係(二者関係)で乳児は母親から授乳され吸うという行為を通して外界と交流が行われます。自分が母親に受け入れられていることが信頼感であり、これが他者への信頼感とつながっていきます。“基本的信頼感”を得る時期です。
②肛門期
1~2・3歳。排便による肛門領域に快感を得ると考えた1~3歳までの時期です。この時期に溜める→排泄というトイレトレーニングを経験することで環境への主張的で能動的姿勢が芽生えます。排便を我慢するという葛藤により“自律性の獲得”へとつながっていきます。母親のしつけは社会規範の受け入れとなってゆくのです。自律性の獲得は服従と抵抗でもあります。ほめられたいという服従とやりたいようにやりたいという抵抗があります。
③エディプス期
3・4~5・6歳。男根期とも呼ばれます。幼稚園~小学校入学前です。この時期には男女の性差“性同一性を獲得”します。性同一性とは、例えば男の子が『自分は男の子である』と理解するということです。そして、異性の親への関心が芽生え同性の親を憎むようになる「エディプスコンプレックス」が「去勢不安」により性への関心が強く抑圧される時期です。男の子だと『ママと結婚する~』という現象です。その逆も然り。同性の親を憎むと男の子ならば『去勢されるのではないか』という不安とともに『父のようになりたい』という気持ちもあるのです。こういうものが同一性の現われです。両親への性同一視を行うことで性役割を獲得します。エディプス願望の抑圧は超自我(道徳・規範)の形成となります。
④潜伏期
5・6~12歳。小学生の時期になります。この時期から思春期に至るまでは性欲動が静まる時期です。この時期に社会的規範の学習や知的活動にエネルギーが注がれます。
⑤性器期
13歳~。中・高校生の思春期の時期です。欲動が性器を中心とする正常な性欲に統合される時期です。正常な性欲とは異性愛です。「自我理想」としての主体的な自分の中のルール(内的規範)の形成される時期です。

フロイトは性的エネルギーであるリビドーを重視しています。フロイトには多くの優秀なアードラーやユングなど弟子たちがいますが、性的エネルギー(リビドー)に対し疑問を抱き袂を分かつことになります。フロイトは何でも性に結び付けるのは、フロイト自身の幼少期や思秋期の影響が強いからです。しかし、フロイトを通らずに心理学や精神分析は語れませんし、フロイトの考えを土台にして様々な学派や理論が構築されています。  
新生児~乳幼児の口唇期(0~18ケ月)では、口唇領域に快リビドーを得ます。1~1.5歳ぐらいまで期間は、母子関係(二者関係)で乳児は母親から授乳され吸うという行為を通して外界と交流が行われます。自分が母親に受け入れられていることが信頼感であり、これが他者への信頼感とつながる基本的信頼感を得る時期です。
ここを失敗するとお子さんはずっとボタンを掛け違えた人生を送ることになりかねません。濃厚なスキンシップとコミュニケーションが基本中の基本となります。お子さん本人は将来的にとても辛い経験をしますし、後々に修正するのも自分自身を否定されるようなことを繰り返す訳ですから改善されるかどうかは解りません。子さんは個別の人格を持っています。親のエゴ・理想の押し付け・着せ替え人形ではありません。 

エリクソン「心理社会的発達論」
米国の発達心理学者で精神分析家であるエリク.H.エリクソン(1902-1994)もユダヤ人です。フロイトの「性的発達理論」における発達段階の発想を拡大し「心理社会的発達論」として文化・社会的要因を踏まえて、自我の発達はそれぞれの段階ごとの発達課題を克服しながら終生進むとしています。エリクソンは人生を8段階に分けたライフサイクルの中で各段階での課題を「ライフタスク」として、これらを肯定的か否定的に解決するという理論を提唱しています。
フロイトの性的発達理論は5段階で「性器期」(13歳~)を中・高校生の思春期以降をひとくくりにしています。性器期は欲動が性器を中心とする正常な性欲に統合される時期です。正常な性欲とは異性愛です。エリクソンは心理社会的発達論でフロイトのいう性器期を「青年期」を成人後の発達を第Ⅵ期~第Ⅷ期の3段階を追加して8段階にしています。

第Ⅰ期 乳児期
0~1.5歳。基本的信頼の獲得⇔不信感。世の中から受け入れられているか重要です。
自分が他人に関心を向ける価値があるかという感覚を持つことができるかということでもあります。お腹が空いたりオムツが汚れても直ぐに養育者が交換してくれる訳ではないことを体験することで、自分の思い通りにならないことを知っていきます。基本的信頼の獲得が不信感を上回らなければ良いのです。フロイトの「性的発達理論」でいう「口唇期」にあたります。エリクソンは『この乳児期が重要である』と言っています。
第Ⅱ期 幼児期
1.5~4歳。自律性の獲得⇔恥・疑惑。この時期になると自分で出来ることも増えてきます。母親への依存という気持ちと反する自立したい欲求も増えます。フロイトの性的発達理論でいう「肛門期」にあたります。トイレトレーニングのように自分で排泄をコントロールすることを覚えます。セルフコントロールできることが大切です。社会の秩序やルールを守るようにしつけの時期でもあります。他の子ができりのに自分ができないと恥や疑惑を感じます。
第Ⅲ期 遊戯期
3・4~6歳。積極性の獲得⇔罪悪感。これまでは母子の二者関係が大切でしたが、父親も加わる三者関係が大切な時期になります。フロイトの性的発達理論でいう「エディプス期」にあたります。積極的に外界と接触し“何かを成し遂げることは楽しい”という自立性や自主性が形成される時期です。野心や独立の基礎となります。
第Ⅳ期 学童期
6~12歳。生産性の獲得⇔劣等感。比較的安定した時期で現実的で実用的なことを達成する時期です。フロイトの性的発達理論でいう「潜伏期」にあたります。   
第Ⅴ期 青年期
12~20歳。自我同一性の獲得⇔同一性拡散。アイデンティティ(自我同一性)の獲得が重要です。今まで家の中で通用していた価値観を社会に出て行くために再編成しなければならないのです。エリクソンは「乳児期」と「青年期」が重要な時期であるとしています。乳児期~青年期」での5段階である児童(若年)期は“自分は誰か、自分は何か、自分は何になりうるのか”などのアイデンティティの確立が個人の実存的な面の基本をなすものです。
第Ⅵ期 初期成人期
20~30歳。親密性の獲得⇔孤立。青年期(12~20歳)のアイデンティティ(自我同一性)の獲得により自分が何者であるかはっきりしていなければなりません。個の確立があって初めて他の人間同士の関係を作れます。親密性とは異性との親密さだけでなく学生や仕事などでの他人との交流のことでもあります。
第Ⅶ期 成人期
30~50歳代。生殖性の獲得⇔自己停滞。生殖性とは子育ては勿論、次世代の人間も育てることを指します。生殖性が阻害されると興味は自己本位となり人間関係の中で停滞の感覚を強くします。
第Ⅷ期 成熟期 
60歳以降~。統合性の獲得⇔絶望。心身の衰えや定年退職などによる自身のライフサイクルを受け入れる時期です。人生を自己責任と受け入れます。受け入れられないと「絶望」してしまいます。良いことも悪いことも受け入れ統合していく時期です。一種の哲学的な知恵が求められることになります。

エリクソンは乳児期と青年期が重要な時期としています。0~1.5歳の乳児期エリクソンは「基本的信頼の獲得⇔不信感」。世の中から受け入れられているか重要としています。
赤ちゃんは胎児の時は約34度の羊水の中にいます。外界はせいぜい25度前後。10度以上も違う外環境におかれるので生得的に温かいものを求める「求温欲求」があります。すから抱っこは柔らかく温かいので安心感を得て泣き止みます。赤ちゃんにとって心地よい状況です。何か要求すれば母親が叶えてくれるのは、うれしくて気持ち良いので赤ちゃんの「基本的信頼感」をはぐくみます。自分は愛されている、受け入れられている感覚が大切です。この信頼感を土台にして、自分を信じる気持ちが生まれ外への興味や好奇心が生まれます。しかし、毎回泣いても泣いても抱っこしてもらえないと最終的に赤ちゃんは泣くことを諦めてしまいます。自分は受け入れてもらえない不信感を得ます。また、抱っこされたり、されなかったりすると不安が増してより頻回に抱っこを求めるようになる場合もあります。
自分が母親に受け入れられていることが信頼感であり、これが他者への信頼感とつながっていきます。基本的信頼の獲得が不信感を上回ると、この漠然とした不信感は影を潜めながら、問題を抱えたまま持ち越され、後々問題行動を起こすようになります。基本的信頼の獲得が不信感を上回らなければ良いのです。ほど良い母親で問題ないのです。完璧である必要はありません。逆に完璧であるのも後々問題になってきます。
「青年期」は12~20歳です。この時期はアイデンティティ(自我同一性)の獲得が重要です。今までの価値観を壊して再編成しなければならない時期です。「自分は誰か、自分は何か、自分は何になりうるのか」などのアイデンティティの確立が課題です。自我同一性の獲得に失敗すると、「自分が何者なのか、何をしたいのかわからない」という同一性拡散になります。エリクソンは、対人的かかわりの失調(対人不安)、否定的同一性の選択(非行)、選択の回避と麻痺(アパシー)などをあげています。また、この時期は精神病や神経症が発症する頃として知られており、同一性拡散の結果として、これらの病理が表面に出てくることもあります。
また、乳児期に基本的信頼感を獲得できずに問題が再燃するのが思春期です。思春期まで持ち越された不信感が爆発します。母親に再度、自分を見つめて欲しいという無意識が働き、暴れたりすることで注目を引こうとしているのです。家庭内暴力、窃盗などの非行行動、引きこもりなどです。最初のボタンのかけ違いが原因です。

マーラー「分離-個体化」
米国の女性精神医学者であるM.S.マーラー(1897~1987)は「分離-個体化」の過程を乳幼児を直接観察して母親と自己の区別が出来ない乳児から次第に離れて成長する3歳(36ヶ月)までの母子関係(ニ者関係)による発達過程を提示しています。
Ⅰ期:正常な自閉期
0~1ケ月。この時期の乳児は内部と外部、自己と他者の区別がない母子融合的な状態です。心理的な反応よりも生理的反応が優勢です。母子のどちらかが病弱や極端に不安定であったりすると発達は順調に進みません。その後の心身発達の重大な障害になる可能性があります。たかが生後1ケ月と侮ってはいけません。
Ⅱ期:正常な共生期
2ケ月~6ケ月。母子が2人で1人のような母子共生段階です。空腹感などの緊張状態の時のみ自己と母親との境界が鮮明になります。この時期の乳児の自我は「原初自我」と呼ばれます。抱っこする身体接触は大事です。そして、目を見つめあったりして気持ちを通じ合わせる適度な共生関係の時期です。この時期に信頼や安心を確信しますので、ここで失敗するとその後の対人関係などに問題を生じる可能性があります。
Ⅲ期:分離―個体化期
6ケ月以降で母子一体の分離が行われる時期で4つ段階に細分化されます。
①分化期
6ケ月~10ケ月。母子共生→個体に孵化。他の区別が可能になり母親と他人、見慣れたものと見知らぬものとを比較し「人見知り反応」が始まります。人見知りは正常な発達過程のひとつですので心配ありません。そして、母親にのみ「特異的微笑」を示します。また、母親が付けているアクセサリーなどを触りたがります。
②練習期
10ケ月~16ケ月。歩行による母親との身体的分離の時期です。練習期は2つに細分類されています。
1)早期練習期
10ケ月~12ケ月。自立歩行前で身体的成熟により這う、膝へのよじ登り、つかまり立ちが可能となるになると乳幼児は周囲に関心を示し遊びますが、離れると時々母親の所に戻ってきて情緒的エネルギーを補給します。
2)固有練習期
14ケ月過ぎに自由に自立歩行が可能となるになると、外界に目を奪われがちになりますが母親がいないと元気がなくなり、外界にも興味を示さなくなり気分低下状態を示します。母親が現われると回復します。
Ⅲ期:分離―個体化期
③再接近期
16ケ月~25ケ月。俗に「イヤイヤ期」の時期と重なります。自由な一人歩きが可能となり、身体的分離が意識されるとともに分離不安(分離意識⇔自己主張)が増します。離れた対象として母親の存在価値を経験するようになります。すなわち、幼児は母親を依存対象として、その愛情と承認を強く求めるようになります。執拗に母親の後をつける「尾行」がみられます。
この絆とでも言える情緒が認められないと「見捨てられ不安」に陥り強く傷付きます。母親が未熟な場合、情緒的に幼児の心の動きに対応できずに分離不安が強くなります。逆に母親が子供に見捨てられ不安を覚え自立の為の対応を阻害すると、この時期に失敗し問題を内在化したまま(第二の分離-個体化)と呼ばれる思春期に「境界性人格障害」などを起こす可能性があります。
これは「境界性パーソナリティー障害」とも呼ばれます。不信感が根底にあり精神が不安定でベタ褒したと思ったらこき下ろし、気分屋で怒りの制御ができません。自殺行動やそぶりリストカットなどの自傷行為が見られます。思春期以降にこいう不適応行動するのは母親に原因がある場合があります。めんどくさくてもこの時期は上手に対応しないと、その後の発達に大きな影響を与えます。上手に母親から分離していく不安を乗り越えられれば、心理的に自由に自分の力を発揮できるようになります。

④個体化期
25ケ月~36ケ月。幼児は母との分離が可能となり、母親以外の人にも興味を示します。自己と対象が区別でき、母親のイメージが心理的に破壊されることはないので、母親の不在にも一層耐えられるようになり平気で遊べます。一貫性のある自己像が完成し、現実検討力も増し言語上達します。個体化が一応達成されるので安定して母親の元を離れることができるようになります。

ボウルビー「愛着理論」
人は誰でも大なり小なり人や物に愛着を持ちます。英国の医師で精神分析家であり、母子間の絆研究の開拓者としても知られているジョン・ボウルビー(1907-1990)は愛着を「アタッチメント」と言っています。
赤ちゃんの微笑みに、誰でも微笑みを返してしまいます。新生児も時々ニィ~と口元が自然に微笑します。これを「自発的微笑」といいます。周囲の親などとのコミュニケーションを誘う本能的な微笑です。自発的微笑は生後3~4ケ月には減少していき、5~7ケ月にはほとんどみられなくなります。そして、生後3~4ケ月以降に徐々に刺激に対し反応する「社会的微笑」が始まります。母親との親密な関係の始まりなどにより、『ア~』や『ウ~』などの喃語(なんご)や喜びなど周囲への働きかけが多くなります。社会的微笑が見られる時期になってくると乳児は母親との間に愛着を形成し始めます。
赤ちゃんは生後2ケ月で人間の顔に対して「視覚的選好」を持ち、母親の高い声に対して「聴覚的選好」を持ちます。赤ちゃんって凄い能力をすでに持っていて、生後1ケ月未満でも舌を出したりした動きを真似する「新生児模倣」などの機能を備えています。 生後3ケ月の乳児には、周囲の母親などの養育者の無表情や笑いかけるや話しかける顔を認識し識別しています。ですから、マスクしたままの育児はNGとなります。
動物もそうですが、赤ちゃんは生後の「接触の快感」が重要です。抱っこなどの身体接触が大きな意味を持つので何はともあれ、面倒くさがらずに泣いたら抱っこしてあげましょう。
ボウルビーは「愛着理論」(アタッチメント)で乳幼児の母親との人間関係が親密かつ継続的で、しかも両者が満足と幸福感に満たされるような状態が乳幼児の性格発達や精神衛生の基礎であるとしています。親と子の「情緒的絆」が大切です。子どもの愛着行動はさまざまな発達で変化します。

第一段階
0~12週頃で非弁別的な社会的応答性の段階。人の姿た声に反応し、泣いたり手を伸ばしたりします。非弁別的なので母親でなくても誰にでも興味を示します。
第ニ段階
12週(3ケ月)~6ケ月頃で弁別的な社会性の段階。人の興味や働きかけはさらに増します。とはいいながら母親などと他人は区別でき、母親には特に積極的に働きかけます。12週頃には誰かに抱っこされると泣きますが、母親に抱っこされると泣き止みます。18週頃には母親が離れていても目を離しません。20週頃には母親に対し頻繁に『ア~』や『ウ~』などの喃語を発します。
第三段階
6ヶ月~2・3歳頃で明確で持続的な愛着の段階。母親への愛着が明確で母親と他人への反応が顕著です。母親の後追い行動をする一方で人見知りがみられます。母親との「分離不安」があり他人の働きかけには恐れや逃避を示します。25週(約6ケ月)頃には視野から母親が消えると泣きます。30週(7.5ケ月)頃には親の身体の顔や服などで遊び、膝に顔をうずめたり、母親と再会すると明らかに喜びを表現します。
そして母親を安全基地(セキュア・ベース)として、未知の他人やおもちゃなど積極的に外部世界に対し「探索」します。他人の所にも行きますが、直ぐに母親の元に戻ってきます。母親・父親の安全基地は不安や孤独を感じている子どもを励ましたり慰めたりするだけでなく間違った行為をした子どもを叱ったり指導する役割もします。探索による行動やしつけなど通して社会規範を修得して、子どもは自律性や社会適応性(感情制御能力)を高めていきます。

第四段階
3歳以降の目標修正的なパートナーシップの段階です。母親などとの安定した関係を構築します。母親がいなくても安心感と信頼感があるので自分の所に戻ってくるし助けてくれるを確信しています。父親や保育園・幼稚園の友達とも交流が増していきます。

乳幼児の母親との人間関係が親密かつ継続的で、しかも両者が満足と幸福感に満たされるような状態が乳幼児の性格発達や精神衛生の基礎であるとし、親と子の「情緒的絆」が大切であるとしています。愛着形成には母親や養育者が子供の状況や欲求を敏感に察知し適切に対応できるかがキーポイントです。
また、子供には生まれ持った性質というか感受性があります。ですから母親の察する力である感受性と子供の反応性の関係が重要です。そして、母親が子供に対して侵入的でないことも大切です。要は愛着を育てるにはほど良く甘やかして育てるのが大切です。3歳までは面倒くさいといわずに良く抱っこして身体接触の快感を得させて上げて下さい。
愛着(アタッチメント)の形成プロセスは母子間の二者関係から始まります。そして、安心感や信頼感を得ますが完成されている訳ではありません。乳幼児期~児童期の不安感や孤独感を和らげるための安心・依存を得る「愛着」の行動をします。そして、徐々に人間関係や環境に積極的にチャレンジして学習経験を積み重ねていく探索を通して、自律性を獲得しさまざまな物事を学習していきます。子どもの人間関係や行動範囲が広がることで父親・祖父母・兄弟姉妹へと愛着の対象は増大していき、さらに友達・仲間・異性・集団などへと社会的関係性の愛着が拡大していきます。 愛着は自立性を獲得した後も形を変えて存在し続けます。
乳幼児期に抱っこなどの身体接触は「接触の快感」を得ます。両親や養育者と親密な関係が作れず精神的な安心感・愛情・保護・支援などを与えてもらえないと愛着形成障害が起こり心身の発達・成長が阻害されたり、情緒不安定で生活環境への適応性が低下し、相手との適度な距離感が取れずに不適応行動が起こります。親しい友人関係を築けなくなったり、慢性的な抑うつ感・空虚感に襲われやすくなったり、学校の勉強や自分の進路選択に集中できなくなるなどのさまざまな問題が生じてくる場合もあります。愛着は乳幼児の精神発達は勿論、その後の人生にも影響を与える必要不可欠なものなのです。  
3歳までは適度に程よく甘やかして育てましょう。3歳以降は父親が加わる三者関係が重要視されます。父親は子どもに社会性を教える存在です。感情的に怒ったり、厳し過ぎるのは良くない育児法です。褒めて育てるのは大切ですが、しかし親が容姿だけを『可愛い』と褒め過ぎるのも問題あります。親が喜ぶことを優先する子になります。子供は『こぼさないで上手に食べられたね』『きちんとお返事できたね』などのように“行為を褒める”のが大切です。褒めて育てておけば問題ないと考えるのは早計です。とはいえ、完璧な母親である必要はありません。手抜きをするのが発達心理学では“ほどよい母親”として必要です。神様でもないので完璧でなくてイイのです。

ピアジェ「思考発達段階理論」
スイスの心理学者であるジャン・ピアジェ(1896-1980)は「思考発達段階理論」における知的構造の発達時期を段階分けしています。
①感覚運動期
0~2歳。言葉を獲得前の未社会化の段階。感覚と運動が表象を介さずに直接結び付いている時期です。
②前操作期
2~7歳。行為が内面化しごっこ遊びのようなシンボル機能が生じます。しかし、思考は自己中心的で他者の視点に立って理解することができません。
③具体的操作期
7~12歳。言葉を獲得しているが具体的な思考操作しかできません。数や量の保存概念が成立し、また可逆的操作も行えます。しかし、思考内容はまだ未熟で具体物に対して運用されない特色を持っています。
④形式的操作期
12歳以降。青年期の初めの頃、一生続く形式的、抽象的操作が可能になり、『もし、〇〇〇であれば』といった仮説演繹的思考ができるようになります。

ピアジェはシェマの同化と調節、そして均衡化によって認識が大きく質的に発達してくと考えたのです。そして、シェマによる認識の発達のみではなく、行動が内在化される操作(operation)によっても発達が進んでいくことになります。シェマ(スキーマ)とは人が環境と相互作用する時に使用される杞憂の行動や知識などのことです。つまり、自分の身の回りのことを把握するために持っている自分の知識や行動のことを指しています。外界の認知に関する基本的な枠組みのことです。
同化とは、主体が環境内の出来事を既存のシェマを用いて取り込む働きのことを言います。つまり、自分がもともと持っているシェマ(認知的枠組み)によって自分の身の回りのことを把握することをいいます。例えば、空から水滴が落ちてきたときに自分がもともと持っている「雨」というシェマを用いて『雨が降ってきたなあ』と認識することになります。
調節とは、既存のシェマでは対応しきれない新しい出来事に直面した場合にうまくシェマを修正し変化させることを言います。つまり、自分の身の回りに起きたことが自分がもともと持っているシェマでは理解しきれない時に、シェマ自体を修正・変化させて外界を認識することをいいます。
均衡化とは、このように人はシェマを修正・変化させていきます。これを繰り返すことによって主体のもつシェマをより高次のものに構造化していき、ある認識を次の段階のさらに安定したものに発達させることをいいます。つまり、同化と調節を繰り返すことによって,これまでなかった新しいシェマを追加したり、間違っていたシェマを修正したりすることによって全体のバランスをとることによって発達していくと考えています。

スターン「乳児の自己感の発達理論」
米国生まれでスイスに渡った精神科医ダニエル・スターン(1934-2012)は、乳幼児の精神発達や発達早期の母子関係の精神分析的研究で多くの功績を残した人物です。彼が提唱する「乳児の自己感の発達理論」はマーラー同様に観察することを重視し、そうした観察データから乳児は生まれながらにしてさまざまな感覚や豊かな感受性を持っていると考えたのです。
これを「有能な乳児観」と呼び、乳児期は自他未分化期であるとしたマーラーの主張に対して反論したのです。乳児は出生直後より身体的な独立性と統一性を有する自己として外界と活発に関わります。そして、生まれてから18ケ月までの期間に自己感達成の4段階を持つとしています。
①新生自己感
生後~2.3ケ月。あらゆる情報を感覚器官を通して関連する「無様式知覚」です。萌芽的自己感(0~2ケ月)は自己を含む世界についての感覚であり、母親との交流を積極的にするという目的を持って作用しています。
②中核自己感
2.3ケ月~7.9ケ月。一つの自己としての経験がもて、自己が境界線の明確な単一の身体単位であるということを経験を通して感覚が芽生えていきます。それには独特な情動の経験が伴います。他者と共にある自己です。
③主観的自己感
7.9ケ月~14.15ケ月。自己と他者は身体的存在としての各単位としてだけではなく、感情、動機、意図という内的主観的体験を共有できます。母親との関わり合いで重要な役割を果たすのが「情動調律」です。調和やズレを認知した情動調律では親が乳児の『アー!』などの声の抑揚や身ぶりを通して交流します。乳児の感情共鳴が続けば、親は子どもと同じ喜びと興奮に満ちているといえます。
④言語自己感
14.15ケ月~18ケ月。言語発達に伴い自他相互の共同作業によって経験が想像されます。自己の客観視や抽象的思考(ゴッコ遊び)が可能になります。伝統的精神分析での対象となり、処理されてきたのはこの言語的自己感の領域です。言語と非言語の体験のズレが神経症となるとされています。

 

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